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道(タオ)戦略的老子の解釈  作者: 公心健詞
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大切な思い出

永年の経済政策の差によって弱小だった祭童軍が巨大な経済圏をつくっていることが発覚する。

「戦略とは、敵陣営に混乱と内紛を持ち込むこと。無能な味方は有能な敵の何倍もの被害をもたらす」

 抑揚のない声で藤林が言った。

 武士が都庁の謀略担当室に豊島区の治安の安定化と住民の沈静化について質問するために訪れていたのだ。

「以前と言葉遣いが違いますね。前に池袋管理局に来てくださった時は敬語を使われていたのに」

「あの時は都知事の指示で君の朝比奈探索班の支配下に入った。上官に対しての対処をしたまでだ。今は違う。気に食わなければ去るがいい」

「いえ、そんな。失礼しました。豊島区の主に池袋で発生している紛争の多くは祭童軍の画策によるものということですね。このように紛争が頻発してはたまりません。何とか抑制する方法はないものでしょうか」

「先ほど言った」

「全力を尽くして混乱を沈静化しろということですか」

「ちがう。こちらの力が弱くても相対化して相手がこちらより弱ければ相手をコントロールすることができる。つまり、こちらも相手方に混乱を仕掛ければ、相手方はこちらに対して策動する余裕がなくなる」

「ではどうやって?」

「君は木下良太を知っているか」

「はい、先輩です」

「そいつが今、秋葉原でピザの穴という同人誌即売店を作り、大金を儲けて勢力を強めている。最近女子向け商品の開発に乗り出し、池袋界隈で同人誌を製作している同人作家、同人絵師を物色している。これに接触して情報を得るがよかろう。敵を知り己を知れば百戦危うからず」

「分かりました」


 武士は配下の者を手配して良太と接触を図った。かつて草履取りだった良太は出世して大金を手にしていた。池袋の女流同人作家を紹介するというと、喜んで接触してきた。そして、少しずつ、秋葉原の経済状況をしらべ、時に、作家を秋葉原に向かわせて、状況を偵察させた。そして分かったことは、豊島から有明、そして秋葉原まで交通網を整備し、年に2回有明にある巨大施設で大同人誌即売会を開き、即売会が終ったあと、即売会に参加した一般が秋葉原へ行って消費するという商業システムが構築されていることが分かった。しかも、そのイベント参加人数は20万人から30万人にのぼる。その同人誌即売会によって、祭童は莫大な利益を得ていた。

 武士はその資料をもって、目黒の病院に入院する太原のところへ行った。藤林の助けも借りて、都庁軍の収益も計算し産出していた。石高に換算すると祭童の領地の石高は57万石、都庁軍の石高は年々落ち込み14万石であった。太原はこの事態を深刻に受け止め、病床の身ながら無理をしてカゴをつかい都庁にむかった。都庁とアポを都って都庁室に行くと、そこには都知事とともにユーベルトートがいた。

「これをご覧ください」

 太原は武士と藤林が調査して算出した数値データの一覧を見せた。

「このままデフレが加速すると、都庁側の生産能力は低下を続け、ついには祭童軍に軍事力で対抗できなくなります。なにとぞ、道路整備を行い、一人辺りの生産性を向上させ、デフレを解消させてください」

「は?何を言っているんだ。お前、俺を馬鹿にしてのか。もし、本当に一方的に俺が損をしているなら、俺も対応しよう。しかし、オレは自らの資産をいつも監視しているが、物価の下落によって益々俺の保有金融資産の価値はあがっているぞ。保有資産の価値が増大して利益が出ているのに、何で俺が損をして身銭を削って道なんか作らなきゃいけないんだ!インフレになったら、俺が雇っている人間の賃金も高くなるじゃねえか」

「そこが狙いです。賃金が高くなり、緩やかなインフレ状況になることにより、景気は回復するのです。景気が回復すれば税収も増え、都庁も潤います」

「そんな都合のいい予測など頼れるか!消費税を20%まで上げればすぐに税収などあがる」

「しかし、多くの企業が倒産し、結局税収総額は減ります。利益にはつながりません」

「その手にはのらんぞ、貴様、服部平蔵から聞いて知っているぞ、お前の知識はマルクスの資本論から得ているものらしいな。このクソ赤め!」

「無論、マルクスの資本論もケインズ経済学も学んでいます。古典経済学は経済学の基礎です。学んで当然でしょう。マルクスであれ、ケインズであれ、経済理論として正しいことは正しい!問題はレッテルを貼ることでは解決しません。必要なのは、何が正しいか、間違っているか、自分の頭で考え、理解し、判断することです」

「だまれ赤め、ユーベルトート、こいつを殺せ!」

 都知事が命じるとユーベルトートは手からオタソードを出した。

 武士も手からオタソードを出す。しかし、ユーベルトートは手からオタソードをひっこめ、都知事のほうにむきなおってひざまづいた。

「私の経済学の知識に基づき考察しましても、あの資料に書かれている状況は由々しき事態です。なにとぞ、都庁軍の栄光を維持するために、太原禅師の意見を入れて、公共事業による道路整備を!」

「だまれ!」

 ガツン!

 都知事はユーベルトートの顔を足で蹴った。顔だけでなく、体中を何ども、何ども蹴った。ユーベルトートはひざまずいたまま無言で動かない。

「この役立たずめ!お前なんかより、最初から服部平蔵を雇っていればよかったわ」

 都知事がそう言ったとたん、ユーベルトートは顔をあげた。そこに都知事の足の裏がモロニあたる。

 ガツン!

 金属音がした。しかし、ユーベルトートは動じなかった。

「お前といい朝比奈といい、この役立たずどもが!うせろ!命令だ」

「はい」

ユーベルトートは退出した。

「お前らも消えうせろ!二度と都庁室には来るな!」

 都知事は血管を浮き立たせて怒鳴り、武士と太原は黙って都知事室から出て行った。

 その後、太原の容態は悪化し、食事を受け付けなくなり、亡くなった。

 葬儀に都知事は参列せず、ユーベル・トート、朝比奈、松平武士だけが見送るさびしい葬儀となった。

 朝比奈は目からポロポロ涙を流していた。

「ひどいじゃないか、友達なのに、どうしてやる夫っちは来ないの?」

「そんな……都知事閣下は友達だと思ってないかもしれませんよ?」

「友達だよ!」

 朝比奈は大声で怒鳴って武士をにらみつけた。

「どうしてそう思えるんですか、こんな扱いをうけて」

「やる夫っちはね、みるくちゃんがクレーンゲームでハムスターのヌイグルミが取れなくて1200円使ってもとれなくて泣いてたらね、300円でハムスターのハムちゃんをとってくれたんだよ!かっこいいだろ!」

「……そんなことをいつまでも覚えていて……」

「そんな事って何だよ!私たちの大切な思い出なんだよ!」

 朝比奈は目からポロポロ涙をこぼしながら叫んだ。

 ユーベルトートはただ、無言で手を合わせるだけであった。

朝比奈にとっては大切なものはお金などではなく思い出だった。

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