タブー
今回の内容は閲覧された方が不愉快になる可能性のあるので、
気楽に娯楽作品だけ見たい方は内容を閲覧しないでください。
飛ばして読んでもストーリーに影響はありません。
横須賀のアメリカ軍基地の近隣で12歳の少女がアメリカ軍人に三人がかりでレイプされる事件が起こった。
それと同時に都庁軍内のスポークスマンがあわただしく動き出した。情報部隊が総動員され、池袋からも情報担当がかりだされ、インターネットによる検索がはじまった。レイプされたのが日本人だと分かると、情報担当官たちから安堵の笑みがこぼれる。武士には意味がわからなかった。
「君たちは女性だろ?何を笑ってるんだ」
「まあ、落ち着いてください、レイプ事件は不幸ですが、日本人なら被害者を黙らせることができる」
「被害者を黙らせてどうするんですか!」
「だまらせなければイラクのAbeer Kassem Hamza al-Janabi事件のようになる。それを防止するために、黙らせて被害者の少女の命を守るべきです」
「何を言っているんだ!ここは法治国家日本だぞ」
「殿は何も知らないのですか。キャサリン・ジェーン・フィッシャーの白書を読んだことは?」
「何だよそれ」
「では、キャサリン・ジェーン・フィッシャーの著書である『涙のあとは乾く』を読んでください。日米の間には密約がある。米軍のレイプ事件が起こったからには、これからアメリカのマスコミが総動員して戦前の日本による蛮行があばきたてられ、横浜自治区長はアメリカに対して謝罪させられることになるでしょう。今まで何百回と繰り返されてきたようにね。厄介なのは東京都ですよ。都知事は謝るのが大嫌いですからね。この前も謝るどころか、『日本人の一般女性をレイプするくらいなら売春婦を使ってくれ。一般人を襲わないでくれ』と発言したためにアメリカのマスコミの特派員が『日本の政治家が、外国人をレイプしてやると発言した』と全世界に配信されて、あやうく経済封鎖されて大量の餓死者が出るところだったんですよ」
「都知事がそんな事言ったんですか?」
「言うわけないでしょ。でもアメリカのメディアは世界ネットワークを持っているので、嘘でもそれが通るんですよ」
「そんな無茶な!」
「あなたはあまりにも無知でナイーブすぎる。もうすぐアメリカのリベラルマスコミが日本の過去の残虐行為を攻め立てる報道をはじめ、日本の格自治体を糾弾しはじめますよ。その前に、各自治体の責任者が謝罪をおこなわなければ。今回は駄目新蔵元元首がこちら陣営にいるので、彼に謝罪してもらうことになるでしょう。何のプライドもなく謝罪する得がたい人材ですからね。多くの血を流しても我が陣営に取り込んだ価値があるというものです」
情報担当は満面の笑みを浮かべた。
「そんな事して世論を黙らせても、愛国勢力、保守勢力が黙ってはいないでしょうね」
武士がそう言うと、情報担当官だけでなく、その場にいた武黒衆の女性たち全員が目を丸くして一斉に武士に注目した。
その後、大爆笑がおこった。
「ちゃはははははっ!殿おもしろ~い!」
「今年一番のギャグだわ~あはははははは!」
「もう腹筋崩壊い~はああ、あは、あは、あは」
武士は唖然とした。
「何笑ってんだ、ボクは本気だぞ!」
武士は少し怒気を含んだ声で言った。
「はあ?じゃあ、テレビでも見てくださいよ、保守派とやらが何て言ってるか」
武士はテレビをつける。
「これは日本側の外交的大勝利です!私たちはこれでアメリカに貸しを作った!今後、アメリカは外交において日本の前にひざまずくことでしょう!」
保守文化人である馬鹿貝良子がテレビ画面の中で毅然として胸を張りインタビューに答えていた。
「うふふ、見たでしょ、この世に正義なんて無いんですよ、力こそ全て、力で相手をねじ伏せたほうが勝ちなんですよ」
楽しそうに武黒衆の情報担当官は語った。そこには何の憂いもない。みんな、それが当たり前であり、何の疑問をもってはいなかった。この純朴そうな女性たち、それが、あのように殺伐と平気で人を殺す理由が武士にも少し分かった気がした。そして、祭童が自分が滅ぶかもしれないのに、武士を都庁軍陣営に送り込んだわけも。
武士はアメリカ側の反応を見るためにインターネットに接続した。翻訳掲示板を使ってみると「日本人は食べると猿の味がする」と大量に書き込まれていた。
一見文法上意味が分からない言葉だが、20013年沖縄で女性が米軍兵士にレイプされた事件に対して某県の知事が再発防止を訴えるために米軍を訪問したことがアメリカのマスコミで報道され、大バッシングを受けて謝罪させられる騒動が発生した。その時、アメリカの脚本家アレック・サルキンが自分が脚本を担当する作品の中でキャラクターに「日本人は食べると猿の味がする」と発言させた。以後、ネット上では日本人女性をレイプしたという意味の隠語で日常的に使われるようになった言葉だ。「日本には原爆二つでは足りなかったようだ」と共に日本人がアメリカ人に反抗的な態度をとったときに戒めの言葉としてよく使われる。この二つにキーワードを言われると、日本人はたいてい押し黙って反論しなくなる。今回もその二つの言葉が掲示板に氾濫していた。
今はただ、口をつぐみうずくまり、沈黙して時を待ち、いずれこの政権内部で発言権をもって、この世の中をすこしでもいい方向にもっていきたい。武士はそう思った。
キャサリン・ジェーン・フィッシャーは実在の人物です。
イデオロギーのバイアスがないオーストラリア出身の外国人ですので、
彼女の語る内容には非常に信憑性を感じます。




