地獄のハーレムへようこそ
池袋それは男が足を踏み入れてはいけない魔境
秋葉原を離れるとき、祭童は副官としてカトリーヌとヒルダを付けてくれた。
それではくてもレジスタンスは兵力が少ないのに泣けた。馬にのって本郷通りを通って四谷へ、そこから新宿へ向かった。新宿都庁前では誰も出迎えておらず、そこから案内役がついて渋谷へ。渋谷から目黒方面に向かった。
到着したのは目黒の病院だった。
そこの一室に案内される。そこの病室のベットの上に頭の髪の毛を剃った若いお坊さんのような人がいた。
「やあ、松平君」
その声は秋葉原でアルバイトをしていた時のクレーム担当係りの太原だった。
「太原さん!」
武士は太原に駆け寄った。
「よく来てくれたね」
太原は微笑んだ。
「実は君に頼みがある」
「なんですか」
「都庁軍の指揮官として働いてほしい。私は都知事の信任があつい。君が従順に従ってくれるなら私の持っている知識をすべて伝えよう」
「しかし、ボクはもうレジスタンスに感情移入してしまっています。都庁側の汚いやり口も見てきました。どうしても都庁側の人間として働く気にはなりません。牢屋にでも入れていただいたほうが気が楽です」
「しかし、それではレジスタンスのリーダー、祭童君の意思を踏みにじることになるだろう」
「それはどういうことですか?」
「祭童軍は先の戦いで大きく消耗し、君すら抜けた段階ではもう勝ち目はない。いずれ都庁軍によって滅ぼされる。そしてレジスタンスが占領していた地域も都庁側に支配されるだろう。そうなったとき、君しか祭童君の意思を継ぐ者はいないではないか」
「そんな都合のいい話にはのせられません」
武士は拒絶した。
「実はっ……!」
武士の後ろにいたカトリーヌが声をあげた。
「実は祭童様からメッセージを預かってきていたのです」
「え、何?それ、ここで言ってもいい事?」
「はい、さきほど、そちらの殿方が仰ったこと、まさにその事です。都知事やる夫はたとえ一時的に祭童軍を滅ぼしたとしても、新自由主義政策を蔓延させ、東京都を無茶苦茶にし、怒り狂った民衆が暴動を起こし、そのクビはとられることでしょう。その混乱に乗じて、武士様に東京を平定していただき、富を独占している一握りの金持ちから貧しい庶民に富を分配し、正しい国作りをしてほしいのだと。そのため、今は穏忍自重して都庁側の指示にしたがってほしいと」
「そうだったんですか……」
武士は唇を噛んだ。
「それでは、納得してしたがってくれるかな」
「はい」
武士は太原に深々と頭を下げた。
おりしも、新宿の都庁前ではレジスタンスを屈服させ要求を飲ませたことに対する祝勝会と、新しい法律制定を祝う会が同時開催されていた。この東京都庁は大阪に支配されており、大阪鬼神の会の配下にあった。その大阪鬼神の会の最高幹部の一人、悪田明化が祝賀会の会場で講演を行うこととなった。
「みなさん、このたび富裕層尊厳保護法が大阪議会で可決され、富裕層を非難した貧民を名誉毀損で訴える場合、その訴訟費用はすべて大阪府が負担することになりました。もし、生意気な貧乏人や労働組合が経営者や富裕層に逆らった場合は、皆様、どんどん訴訟を起こしてください。ご心配なく。相手の弁護士が出てくることはありません。今回の条例案では、裁判ではなく大阪市が認定した執行委員によって善悪が判断され、金持ちを批判した貧乏人どもには
弁護士をつけることがゆるされていません。しかも、執行委員は全員、市が選んだ市の味方であり、全員大金持ちですので、絶対に貧乏人が無罪になることはありません。裁判なしに有罪となり投獄されるので、ご心配なく!」
「貧乏人をなめるな!」
聴衆の一人が靴を抜いて悪田明化に投げつける。それは力なく悪田の手前に落ちた。
即座にその者は警備員に取り押さえられる。
「くっそ生意気な労働者が、お前らは人間じゃないんだよ、ただの家畜なんだ。その事をここにいるみんなにも教えといてやるよ」
悪田はそういって手招きする。すると、警備員が金属バットを持ってくる。
「や、やめおろ!」
つかまった男が暴れる。
「お前ら貧乏人は、我々大金持ちの特権階級の上流階級議員に黙って服従しとけばいいんだよ!家畜の分際で!」
悪田はそう言って金属バットを何ども振り下ろす。
ドスッ
鈍い音がした。
「このゴミが!クズが!貧乏人が!お前ら庶民は黙って金持ちの家畜として使われていればいいんだよ!お前らに反論の機会は絶対あたえん!すこしでも文句を言ったら高額訴訟を起こして全員破産させてやる!それがいやなら、どんなに侮辱されても、踏みにじられても我慢して黙って俺たち大金持ちの特権階級の靴の裏でもなめてろ、このゴミのクソ貧民どもが!」
血と脳髄がとびちり、男は痙攣して死んだ。
「やれやれー!貧乏人は豚のエサだー!」「お前らは絶対に反論なんかさせんぞー!永遠に黙って服従しつづけろー!」「ちょっとでも逆らったら皆殺しだー!」
観衆が喜んで野次を飛ばしている。
武士は目をそむけた。
武士は都庁周辺に目を向けた。新宿歌舞伎町周辺には浮浪者があふれ、餓死者の行き倒れた死体なども放置されたままだった。その死体の横を民衆が気にすることもなく無気力に歩いていく。だれも死体がころがっていることを気にしない。それは、貧しい庶民にとってはただの日常にすぎないのだ。
金持ちの思想新自由主義。実力主義。貧乏な者は怠け者であり、しぬのがあたりまえ。福祉を徹底的に削って富裕層の税金を軽減するという政治思想により社会的弱者には死ぬ以外の選択肢はのこされていなかった。
こんな世界が世の中にあるのかと武士は思った。これが、彼らが信奉する新自由主義。
それでも、ここで切れて非難すれば、武士もあそこで殺された男と同じ運命をたどる。我慢して、ひたすら時が過ぎるのを待つしかなかった。
それでも、太原の教えを忠実に守り、武士は都庁内での地位を上げ、ついに、地区管理官の地位を手に入れることができた。
赴任先は池袋。
池袋といえば巨大都市だ。どうして新参者の武士にこんな重要な都市を都庁軍はまかせるのか、武士には理解できなかった。ウワサによると、そこの軍隊は武黒武士(ぶくろ武士)と呼ばれる女性だけの軍隊で東京のアマゾネスとして恐れられている屈強な軍隊であるそうな。なぜ、そんな精鋭部隊を武士に与えるのか。
案外、都知事のやる夫はお人よりの馬鹿なのかもしれないと武士は思った。
池袋に武士が到着するとうら若き乙女たちが武士にはしりよってきた。
「きゃー、高校生よー!かわいー!保護したーい!」
みんな可愛かったり美人さんだったり、しかも優しかった。みんあ武士にソフトタッチしてくる。
「ふん、なによ、こいつら、私のほうが武士とは付き合い長いのよ」
カトリーヌがそっぽを向く。
「武士殿!顔がだらしないであります!もっとキリッとしないとしめしがつかないでありますのんた!」
ヒルダが叫ぶ。
「さ、殿、こちらへ」
言われるがままサンシャイン通りを通って、森林がある大きな公園に到着した。
「おとのさまー!ようこそー」
美人さんたちが拍手で武士を迎える。可愛い女の子が恥らいながら武士に花束を渡す。もう一人の女の子が恥じらいながら、武士にノートを渡す。
「これ、武士様の事を思いながら描きました。よかったら見てください」
「うんうん」
武士は笑顔でそのノートを手に取り、中身を見てみた。
「あ?」
武士と太原が青カンで裸体をからませお互いの舌をなめあいながディープキッスをしている漫画だった。
「な……何これ……」
武士の手がワナワナと震える。
「むむっ!これは!」
周囲の女子が異変に気づいてノートを覗き込む。
「これは!生晒しよ!掟破りの生晒しよ!」
一人が金切り声をあげた。
「きーっ!お殿様本人に生ものを見せるなんてフ・ケ・ツ!」
「ゆるせないわ!殺しなさい!」
周囲の女子たちはその可愛い女の子に群がる。
「きゃー、やめてー!あ、ぐがっあ、げろっげはぐ、がああああー!」
叫びがうめき声に変わる。
「や、やめろー!」
武士が慌てて駆け寄ろうとしたとき、武士の足元に、眼球がコロコロところがってくる。
「なにやってんだおまえらー!」
武士は半狂乱になって叫んだ。
「ご心配なく、すぐ掃除しますから」
女の子たちが笑顔で答える。
「そんな問題じゃねえ!ハアハアハハ」
武士は荒い息をした。
狂ってやがる、こいつら、全員狂ってやがる……。
武士は何度も心のなかで反芻するようにつぶやいた。
武士はなぜ、こんな豊かで精強な兵士がいる土地に都庁軍が武士を赴任させたか、やっと意味がわかった。
「あ、そんなことより、殿は織田信長って知ってます?」
「はあ?君だれ?」
ショートカットでジーンズをはいた女の子がぴょこぴょこ飛び跳ねながら武士に近づいてくる。
「ボク?ボクは夏目吉子っていうんだ!」
その子は屈託の無い笑顔で笑った。悪い子ではなさそうだ。
「あ、歴史上の人物ね、それがどうかしたの?」
「信長って総受けですよね」
「は?」
「だからあ、信長って総受けですよね?」
「何それ」
「だからさあ、攻めってのが積極的で、受けってのが従属的なあれですよ」
「いや、信長は積極的な人物でしょ」
「あ?今なんっつった?」
「え?」
「今なんつったって聞いてんだよ」
「ちょっとまってよ、俺、仮にもここの管理官だよ、何いってんの君」
「ああそうですか、そうですか、そうやって権利振りかざして私たちを踏みにじるわけだ。お前も、今まできた都庁軍の管理官と同じなわけだ。はいはいわかりましたとさ」
そう言ってどこかへ行ってしまった。
そこへ巨乳のお姉さんが胸をたゆんたゆん揺らしながら武士に駆け寄ってくる。
「ごめんね~武士くうん、吉子が失礼しちゃって、武士君は貴重な高校生ショタっ子だから、私たちショタっこラブ注入クラブのメンバーで保護してあげるね~」
「誰ですかあなた」
「私ぃ、大久保忠子っていうの、ねずっこチューちゃんって読んでね、けへ」
年がいにもなく、という言葉を武士は飲み込みつつクビをすくめた。
「はあ」
みんな美人さんなのに真に残念な事だ。
「天下の一大事にござる!夏目吉子、遺恨ありとして謀反を起こしました!」
「ぬあにいっ」
伝令をにらみ付け拳を握りしめる忠子の腕にムキムキと筋肉がうきあがった。
「こざかしい、この大久保忠子が蹴散らしてくれよう!続けい!」
忠子は軍勢を率いてそこにあった公園を南に向けて地上を進軍し、高い建物の横を走りぬけていった。その時、
ワーッ!
大きなときの声が響き渡る。なんと、吉子の軍勢は公園の横にある高い建物の中二階を通って、階段を駆け下りてムシロ旗をかかげて突進してきたのだ。旗には「総受けは極楽、攻めは無間地獄」と書かれている。
「やめろ、無益な殺生だ!信長は総受けと認める。だから兵を引け!」
武士は怒鳴る。
「もう遅い!武勇で決着をつけようぞ!」
吉子が怒鳴り返す。
「意味がわからないよ!」
吉子の郎党たちが刀をかざして武士に切りかかる。武士はやむなく手からオタソードを出して、一人を真っ二つに切り裂いた。相手は女の子だ。これで怖がって引くと思った。しかし、一人を切り倒すことによって、余計に相手は激昂して武士に襲い掛かってくる。
「ちいっ!」
武士は切る!切る!切る!切り倒す。体中がかえり血だらけになる。
「うあああああああああああー!」
武士は大声で叫んだ。そのうち、南に進軍した大久保隊が引き返してきて、挟み撃ちになった夏目部隊はようやく鎮圧された。
「くっ、殺せ!」
吉子は地面に座り込んで刀を捨てた。
「こんなつまらない事で、こんなに大勢の犠牲を出して、ただですむと思うな!」
武士は怒鳴りつけた。
「お待ちください!」
武士の前に大久保忠子が割り込んで跪く。
「吉子の気持、このチューちゃんも痛いほどよくわかります」
「わかるのかよ!」
武士は思わず突っ込みを入れた。
「どうか、今回ばかりは吉子をお許しください」
「それはできぬ相談だ!」
武士が怒鳴る。
「そうですか、ならば、我ら責任をとってここで割腹してはてまする!」
大久保忠子は叫んで、服を引き裂きブラジャーがあらわになる。
「私も!」
「いや、私から死にまする!」
「いや私が!」
それまで武士を守っていた兵たちも全員、自分の服を引きちぎって切腹しようとする。
「待て!待て!待て!何をやっているんだ。ここはどういう空間なんだ!頭がおかしくなりそうだよ!!!!!!!」
武士が怒鳴っても、無視して女たちは自分の腹に短刀を突きつけようとする。
「わかった!罪は許すからやめろ!なんもかんも全部許すからやめろーっ!」
武士はどなった。
「おお!こんな寛大なお方は始めてだ!しかもショタだし!」
大久保忠子は叫んでぴょんぴょん跳ねた。大きな胸がたゆんたゆんゆれた。
他の子たちもぶりっ子して喜んでとびはねた。
武士は……全然うれしくなかった。
「めんどくせえ……」
武士はノドの奥から吐き出すようにつぶやいた。
乙女ロードの向こうに武士は何を観るのか?
この小説の池袋の戦闘女子集団、武黒衆がものすごくめんどくさい人間に
描かれていますが、これは戦国好きなら皆知っていることですが、
このお話の元ネタになっている三河衆が戦国ファンの間ではいわば
ネタ的に「めんどくさい」存在だと認識されていることへのパロディです。
池袋の人が面倒くさいという意味では絶対ないので、その点、ご容赦ください。
むしろ、サンシャインクリエイションが私の根城であり、私こそがブクロ衆なのであります。よって、ちょっと甘えと照れ隠しがあることをご了承ください。




