東京八重洲口攻防戦
ついに、元首軍本隊との血で血を洗う闘争が開始される!
東京駅八重洲口辺りにレジスタンス元首の本隊は陣取っていた。
「まだ祭童は殺されていないのかね」
元首はイライラしながら貧乏ゆすりをする。
「あとしばらくお待ちください、ミマサカが今まで敵を仕留めそこねたことはございません」
方月勝がなだめる。
方月勝の部隊とその配下は全て鎧甲冑を着ていてその事がよけいに元首をイラつかせているようだった。
「その甲冑、脱いだほうがいいんじゃないのかね、動きが鈍くなるだろ。それとも鉄砲で撃たれるのが怖いのかね」
「いいえ、鉄砲で撃たれたさい、弾丸は甲冑を打ち抜き、体の中でグチャグチャになってあばれ、致命傷を負います。鉄砲で撃たれたことを考えれば、甲冑など着ないほうがよいのです」
「なら、何故きるのだね」
「それは、敵が新蔵閣下を狙撃した場合、我らが盾となり、御身をお守りするさい、我らに当たった弾が貫通し、新蔵閣下の体が傷つかぬためです」
「ああそうかね」
興味なさげに元首はそっぽを向いた。
「そんな事よりまさか敵がここに攻めてくることはないよね」
「はい、日本橋方面に精鋭部隊を配備しております。易々とそこは通れません。もし、そこが突破されるようであれば、閣下にはお逃げいただくことになります」
「しっかりしろよ」
「はい」
そこに馬に乗った伝令が駆け込んでくる。
「何事だ、新蔵閣下の御前なるぞ!」
「敵、八丁堀方面に出現!こちらに進軍しております」
「なに?哨戒は何をしている。都庁軍の援軍のヘリはどうした」
「敵がこちらに向かっているとの連絡は入っていません」
「どういうことだ……、しまった地下鉄か!」
「何がどうしたんだ!え!」
混乱した状況に怒って元首が勝に罵声をあびせる。
「敵が地下鉄の線路を通って東京駅に近づいた模様です」
「それくらい分かるだろうが馬鹿!」
「はい、哨戒は置いていたのですが、恐らくは敵の忍者に殺されたのでしょう。日本橋に戦力を集中しすぎたがために
八丁堀方面が手薄になっておりました」
「何でもいいからやっつけろ。それから私は逃げますから都庁軍のヘリを呼びなさい」
「はい!」
その時である。京橋方面から怒号が聞こえる。それはだんだん近づいてくる。
「ちいっ、日本橋方面の前衛部隊を呼び戻せ。都庁軍のヘリへ連絡!すぐに新蔵閣下をお迎えするようお願いしろ」
勝は小刻みに指示を出す。
そこに東京駅構内から伝令が走りよってくる。
「和田倉濠隅の交番で爆弾テロ発生!警察官三名が死亡。至急監視要員の派遣を」
「うむ、わかった!」
「待て!」
伝令と勝の話に元首が割ってはいる。
「それでなくても私の周囲は手薄なんだぞ!敵が狙撃してきたらどうするんだ。お前ら一人でも多く私の盾になれ。一人も離れることはゆるさん!」
「しかし、情報が遮断されては危険が増大します」
「うるさい!お前らの危険など知るか!私を守れ!これは命令だ!」
「は、はい」
「監視要員を!」
「お前が何とかしてくれ」
「そんな事をすれば敵に遅れをとります。私が監視し、敵を見つけて通信で連絡を取れば、敵に傍受され、こちらの動きが敵に筒抜けになります。至近距離では伝令は必須です」
「頼む」
勝は深々と頭をさげた。伝令は両手の拳を握り締め体を小刻みに震えながら頭を下げた。
「承知しました!」
伝令は東京駅の中に消えていった。
「方月勝殿、見参!」
大声が響いた。京橋方面から進軍してきたのは前田と佐脇嬢の前田連隊であった。
「よき敵なり!者輩かられい!」
勝が号令をかけると、日本橋から引き返してきた前衛部隊の兵士たちが突進し、前田の部隊と刀で切りあいをはじめる。
ブツブツッ通信音がした。
「どうした?通信か?どこからだ」
「分かりません、すぐ切れました」
「ちいっ」
勝は周囲に神経をはりめぐらせる。
すると、勝の後方から時の声が聞こえる。
「新蔵!許さないぞ!お前を殺してやる!」
勝は振り返り、目を見張った。オタソードを振りかざした松平武士とその配下の山口ヒルダの部隊が日本橋方面から
突進してくる。都庁軍の監視ヘリはこちらに向かって低空飛行になっている。そのスキを衝かれた。
「しまった、前田部隊は囮だ!」
「サダヒデ・フーバー!いるか」
「はい!」
サダヒデが勝のそばに走り夜。
「お前は命にかえても新蔵閣下を守れ。閣下は我らの、そして日本の未来だ。絶対に守るのだ」
「私も勝様とともにここで死にます!」
「ならん!お前は閣下を守るために生きよ!散る桜、残る桜も散る桜、英霊の桜の下で魂となってまた会おう。さらば!」
勝は武士に向かって抜刀し突進する。その時である。
タンタンタン!
乾いた破裂音がした。
「うああっ!」
元首の近くにいた衛兵が倒れる。
「くそっ、ワナか!」
東京駅の構内からウエットスーツを着た甲賀長門と配下30人ほどが突進してくる。全員銃で武装している。祭童軍がもっている銃は全て都庁軍からの鹵獲品である。数は限られている。恐らくは、この部隊がもっている銃が祭童軍の持っている銃の全てだろう。
「閣下を!新蔵閣下をお守りせよ!」
勝は叫びながら元首に走り寄る。
「お前の相手は俺だ!」
松平武士がオタソードを振りかざしながら勝に突進してくる。
「もはやこれまで!」
向き直った勝が武士に刀で立ち向かおうとする。武士は勝に向けていたオタソードを急に上に向けた。
ガチン!
オタソードとオタソードがぶつかる音。
ユーベルトートが空から降ってきた。
ガチン!ガチン!ガチン!
ユーベル・トートと松平武士が剣戟をかさねる。
ユーベル・トートは素早く後ろに飛びのき、武士に向けて手をかざす。
「秋葉原の同人ショップで働いている恥ずかしいオタクは人生の落伍者!」
その間に木下良太が割って入った。
「おのれ!ピザはデブでも食って寝てろ!年齢イコール彼女いない歴!キモデブはオタクのカーストでも最底辺!」
ユーベル。トートは良太に手をかざし矢継ぎ早に連弾をあびせかけてくる。
「必殺!心を閉ざして自分の殻に閉じこもる!」
良太は大声で叫び、体育座りをした。
「はいはい、クズですよー、ゴミですよー最底辺の生きる価値の無いドブのギョウチュウ以下の存在ですよー、はいはいよかったね。それがどうしたの?は?クズですけど?ゴミですけど?ウジムシ以下ですけど何か?」
「うっ……」
かえってユーベル・トートの胸が痛くなって心臓を押さえてヒザをついた。
「させるかー!」
幼女の怒鳴り声に武士が振り返ると、間近に拳を振り上げた朝比奈の姿があった。
「あ!」
殺!死!絶対的な死がそこにあった。周囲の光景がスローモーションに見える。
死ぬ!確実に死ぬ!それが武士にはわかった。
メキョッ!
鈍い音がした。拳が朝比奈の顔面を捉えて振りぬく。
朝比奈はそのまま吹っ飛ばされて近隣のビルの壁を突き抜ける。
武士は何が起こったかわからなかった。
「お姉ちゃん参上!」
金髪のサラサラのロング部屋ーのたくましい体の女の人が力コブをつくって、おどけてみせた。
「おねーちゃーん!」
遠くから佐脇嬢が大声で叫んだ。
「はーい!」
女の人は陽気に平手で帽子を脱ぐようなしぐさをした。しかし、この女性、おかしなところがある。額に犬の刺青がしてある。
「犬ねーちゃーん!」
また遠くから佐脇嬢がさけぶ。
「その名前で呼ぶなよな、それニックネームだから」
と、
ガチン!と音がした。
「くそがあ!」
猛スピードで戻ってきた朝比奈が前田犬の顔を殴り倒す。犬の顔は地面にめり込む。
「そのまま頭つぶして死ねやああああああああああ!」
朝比奈は飛び上がって、地面にめり込んだ犬の顔めがけてトビ蹴りをくりだした。
犬は素早く頭を地面から引き抜き、立ち上がったところから朝比奈のわき腹に回し蹴りをくらわす。
「げぼっ!」
朝比奈は吹っ飛び、地面に三回バウンドするが体制をたてなおし、犬に突進する。
「くらえやああああああ!」
朝比奈は拳を振り上げて犬に突進する。
「当たるかよ!」
犬が軽々と避けようとしたところを朝比奈は殴らず、そのまま足払いをかけて犬をひっくり返し、マウントポジションになって何ども犬の顔を殴りつける。犬は立ち上がり、そのまま地面に朝比奈の体をたたきつけ、朝比奈のコメカミを何ども殴りつける。その手を朝比奈がとって飛びつき腕ひしぎ十字固めをかけようとするが、犬は反動をつけて朝比奈の体をぶん投げ地面にたたきつけ、反動で朝比奈の体が離れる。
「遊びはもうやめろ!我々の目的は元首の奪還だ!」
ユーベル・トートが朝比奈を怒鳴りつける。
「くそがああああああー!」
朝比奈は猛り狂って怒鳴りながら後方に引きののく。
「はやく!早く新蔵を仕留めるのよ!」
パンパンパン!
甲賀長門の部隊が元首に向けて銃を乱射する。元首の回りに勝の部下の鎧武者が立ちふさがり、体中に無数の弾丸を受ける。
「はやく……はやくお逃げを!」
部下が血を吐きながら叫ぶ。
元首はそそくさとヘリコプターに向けて逃げる。
次々に倒れていく勝の部下。そして最後の一人が倒れた。
「今よ!」
タンタンタン!
元首の前に勝が立ちはだかる。
「閣下、はやく、早くお逃げください」
口から血を流し、勝は仁王立ちになる。
「撃て!撃て!」
タンタンタンタンタン!
勝は歯を食いしばり、両手を広げて立ちふさがる。
「友よー!お国のためにー!英霊のさくらの下でーともにー」
勝は前のめりに倒れた。
「勝さまー!」
サダヒデ・フーバーが目からポロポロと大粒の涙を流しながら叫んだ。
「さあ、早くヘリコプターにお乗りください」
サダヒデは自分の体を盾にしながら元首をヘリコプターに押し込む。
「この役立たずどもが」
元首はサダヒデをにらみつけてヘリコプターの下に蹴り落とした。その横を素早くユーベル・トートと朝比奈が通り過ぎ、ヘリに乗りこむ。
ヘリは、地上にサダヒデを残して急上昇して去っていった。
サダヒデはその場に呆然とへたりこんだ。
「そなたの忠節、見せてもらったぞ。よくぞ今まで弟に仕えてくれた。礼を言う」
それは担架で運ばれてきた祭童の言葉だった。
「ミマサカが持っていた銃にゴム弾を入れておいてくれたのはお前であろう。どこまでも甘い奴め」
祭童が微笑んだ。
サダヒデは祭童をにらみ付ける。
「殺せ!」
「何を言う、お前はいままで一緒に戦ってきた仲間ではないか。私はお前を見捨てない。仲間を見捨てない。一人は皆のために皆は一人のために、それが日本人の魂であろう。大和魂であろう」
「……ううう……うう……うああああああああああああー」
サダヒデは大声で号泣してその場に崩れ落ちた。
怒りに我をわすれ武士は突進する!




