分からずやたち
実はここは異世界ではなく、未来の東京であることに武士は気付きはじめていた。
武士の目から見て不毛に思える戦いを続ける未来人たち。
武士は平和に話し合いで解決するよううながすが彼らは聞く耳を持たない。
「イヤにきまってるでしょ!」
武士は全力で否定した。
祭童は困り顔をしている。
「いや、そこをなんとかならぬな、我らにとっては貴重な戦力なのだ」
「いや、戦力とかいって、この前みたいに死にそうになる戦いするんでしょ?戦争でしょ?
そんなにイヤに決まってんでしょ、話し合えばいいでしょうが、話し合いで解決しましょうよ、
いつまで戦ってんですか」
「話し合いとか言ってるからこの国がその有様なんだろうが」
「何でボクがあんたたちの尻拭いしなきゃいけないんですか!」
「お前らの尻拭いをしておるのは我らだ」
「は?」
「お前の風体、みるからに平成から来た者であろう」
「あ?何言ってるんですか」
「お前ら平成が豊かだった日本をこんなに無茶苦茶にしたんだろうが、そのせいで我らの国は
無茶苦茶になり血で血を洗う殺し合いをしておるのだ」
「あ……はい、とかいって、それは国とかでしょ、俺関係ねーし」
「関係なくても戦わねば殺される」
「いや逃げればいいじゃないですか」
「アホか、お前ら戦争が起これば逃げればいいとか言って、実際に隣国が攻め込んできたら
飛行機の運航が止まって、漁船やボートで海外に逃げようとした連中は外洋の三角波に当たって全員死んだではないか。
平成馬鹿のドブネズミダイブってコトワザがあるだろうが」
「いや、そんなコトワザ知りませんし、多分未来はそうだろうけど、俺はそんなこと関係ないですからっ!」
「こいつ、面倒だからここで殺しちゃいましょうよ」
横から金髪で青い目の巻髪の少女が顔を出してきた。
「これ、カトリーヌよ、そのような事を言うものではない。それでは我らもあの新宿のインテリどもと同じになってしまうではないか」
「いや、私は漫画を全て焼き払い、ゲームを全て破壊しつくすような野蛮な真似はしませんが」
「そういう事を言っているのではない。そうだ、カトリーヌ、そなたの家でこの者を再教育してはどうか。こやつの腕は一流であることは分かっている。こいつは私がピンチの時助けてくれた優しい心の持ち主ゆえ、きっと木性じゃ、そなた水性で育ててやるがよい」
「そ、そのような無茶な」
「これは命令だ」
「は、はい」
金髪の女の子カトリーヌはしぶしぶ頭をさげたあと、武士をにらみつけた。
「来なさい」
「は、はい」
少女は武士に馬を用意したが、武士は馬の走らせ方がわからないので、馬子に綱を引いてもらって、
カトリーヌの家まで連れて行ってもらった。彼女の家は有明にあった。人工島の橋は落ちていてお台場の砂浜まで
渡し舟でわたった。お台場の荒廃したテレビ局あとの内装が飾り立ててあり、そこが彼女の一族の住処のようであった。
「あの……」
「なに?」
カトリーヌはとげとげしく武士を睨みつける。
「あのリーダーの人が言ってた木星?何ですか、星座占いとか?」
「方月祭童様だ。今度名前を覚えてながったら殴るからな」
「はい」
「それで、木性のことか、お前は情が深いから木だと言っておられるのだ。私の事は知恵が回るゆえ水であろうと
言っておられる」
カトリーヌはそう言うと口を尖らせた。
「何ですかその木とか水とか」
「陰陽五行だよ、老子といえば平成の者にも分かるかな」
「老子?ああ、何か爺さんが説教するようなやつでしょ?何もしないことがいいとか馬鹿なこと言ってる役に立たない東洋思想。そんな事いってるから何もかも西洋に征服されちゃうんだ」
「馬鹿かお前、老子は戦略思想だ。それは世界中の常識だ。日本でもそれは常識であった。
お前らが戦前と呼ぶ世界まではお前らに日本人も他の世界と何のかわりもない普通の人間であった。
それが、戦後とよばれる時代になってお前らは自分の事しか考えなくなった。そして、この国を無茶苦茶にしたんだ」
「だからそれは国とか政治家とかさあ……」
「国はお前であり政治家はお前らが選んだんだ!そしてお前らは何も守る事なく散り散りばらばらに逃げて
逃げた奴はみんな殺された!ここに残っているのは戦って生き残ったものだけだ!だから戦わないなら
ここでさっさと死ね!」
「ふーっ」
武士は深いため息をついた。頭がいかれていると思った。こんな狂った世界にいれば無理も無い。
「お久しぶりぶりっこでありますのんたー!」
頭に狸耳をつけた茶髪で巻き毛の女の子がカトリーヌめがけてトコトコ歩いてくる。
「あら、ヒルダ山口じゃない、どうしたの?」
「新しく仲間に加わったオタククレーマー七人衆のおかげで上野、下谷、吉原、南千住まで制圧したようでありますのんた!今度はこの勢いに乗って東京と霞ヶ関まで進軍するのでありますのんた!」
女の子はピョンピョン跳ねた。
「ちょっと待て、東京、霞ヶ関って上野と正反対じゃない、まさか二正面攻撃をする気なの?」
「南千住方面はいくら攻めても援軍は来なかったでありますのんた!」
「慢心よ!長門がついていながらなんてこと」
「慢心じゃねえよ」
野太い男の声がした。
「前田!」
筋骨隆々のたくましい男がゆっくり武士たちのほうに歩いてくる。
「祭童様はあえてやっている。敵がもろすぎるんだ。もう一段押して、敵の本体を知る。攻めて戦えば
相手の攻め筋が分かる。今まで敵は本隊を温存して戦ってきた。しかし、最強のオタククレイマー七人衆が
我らに加盟したために台東区方面の敵は壊滅、敵は本隊を出してこざるをえない状況になった。これは来るべき決戦に向けての手筋読みなんだよ」
「老子ゴッコもいいかげんにしなさい、やるなら全力であたらないと」
カトリーヌは真剣な表情で武士を見る。
「あなたも一緒に来て。一緒に戦うのよ」
「だからさあ、今勝ってて優勢なんだろ?こんな時こそ話し合ってだなあ」
「もういい!」
カトリーヌが大声で怒鳴った。
「なんだ、てめえが平成前期から来た奴か」
目を血走らせた前田が武士に歩み寄る。
「なんだよ、お前ら未来人だか何だかしらないけど、何でも人のせいにすんなよ、俺は関係ねえよ」
「未来人じゃねえよ、俺は平成後期から来たんだ」
「だったら俺の気持が分かるだろ、平和の大切さとかさあ」
「俺はあの時ガキで何もできなかった!お前らクソみたいな大人どものために俺の友達が大勢死んだんだ!」
カトリーヌは前田の前に立ちはだかる。
「武士への手出しは許さないわ。私が祭童様から任されたのよ」
「殺すぞ!」
「殺されるまで戦うわ!」
「ちっ、いくぞ山口」
「わかりましたでありますのんた!」
前田は山口をつれてその場を立ち去った。
カトリーヌは武士を見下したような目で見る。
「あなたは本当に来ないのね」
「ああ、いかないよ」
カトリーヌは口をつぐんで前田の後に続いた。
敵との決戦が迫る!