(4)
何故か海賊の船長に気に入られて三日目。
「引越しするから、少しだけお別れだ」
と言われ手枷を外された。
風呂に入らされ、この辺の女性の衣装なのだろうか――薄い布で出来たスカートと上着を巻きつけられた上で、牢屋に戻される。
「身体は? ……平気なの?」
開口一番、やつれた様子のシェラザードに問われる。
どの顔も真っ青で、酷く心配していた様子がわかった。
トイレや風呂以外は、ずっと同じ体勢だったので多少、足腰が痛いのと、酒の飲み過ぎで二日酔いなだけだった。
「大丈夫です。心配かけてゴメンなさい」
嘘偽りなくそう告げたのだが、余計な事を見張りが説明した。
「エミュ、だっけ? その娘、船長に随分、気に入られたみたいで。ずーっと船長の部屋で手枷はめられて軟禁状態でしたよ。朝も昼も夜も……! あの船長相手に、よく三日も持ったよなぁ」
どうやら感心している様子の見張り。
エミュは顔をしかめた。
「手枷ですって?」
驚いたように見張りを睨みつけるシェラザード。
「また自殺されたら後始末が大変だから……って事らしいですよ」
見張りが言う通り、エミュの手首には手枷の跡があり、擦れた時に出来た傷から血が滲んでいた。
よくよく見れば、その綺麗な瞳は、どれくらい泣きはらしたのだろうか?
赤く潤み、今にも悲しみが零れ落ちそうで。
シェラザードは怒りで顔を真っ赤にした。
「何という事を! 船長を呼びなさい! "聖女"様の居場所を……!」
「シェラザード様」
エミュは、興奮している様子のシェラザードを制する。
「本当に大丈夫ですから」
「でも……」
『あんな奴でも、まさか何も考えてない訳じゃないだろうし。少しは期待しても良いんじゃないか?』
というエミュの本音は、この世界では自動修復されるらしい。
「神の御加護が、きっとあります。諦めてはいけません」
知らない内に、そう強く訴えていた。
「わかったわ。エミュ。貴女がそう言うのであれば……私も今一度、神に祈りましょう」
牢屋の中が、にわかに祈りの場となってしまって、少しばかり気分が悪くなるエミュ。
シェラザードを輪のように囲んでいる女の子たちを時折、口許に手を当てながら見ていたエミュだったが、油断すると吐き下しそうになるので牢屋の隅で仮眠を取ることにした。
随分と飲まされた酒の効果もあいまって、すぐに眠りにつく。
「とても気丈で立派な子ですが、いつまで保つか……」
胎児のように小さく丸くなって眠るエミュを見つめて、シェラザードと他の少女達は焦りを強くした。