(2)
ここは、どうやら各国のお嬢様ばかりを狙った誘拐犯のアジトのようだった。
牢屋にいるのは全員がまだあどけない少女で、最年長で二十歳くらいだろうか?
中でも、何かと自分の事を気にかけてくれる赤い髪の少女は、別格のようで。
「シェラザード姫。少しお話が」
賊の見張りまでが姫と呼び、敬語を使った。
「今は手が離せません。何用ですか?」
それもその筈、シェラザードは赤子のように丸まったまま泣き崩れている自分を抱きかかえてくれていた。
「船長がお呼びです。話があるとの事」
「こちらには、ありません」
キッパリと言い放つシェラザードを見て、見張りは僅かに頷くと行ってしまった。
「姫。海賊たちに逆らってはいけません。何をされるかわからないのですよ」
周囲にいた少女の一人が、シェラザードを諌める。
「私は最後の切り札。出したくても手を出せないのよ。危険なのは貴女達です。早く何とかしなければ……」
シェラザードは憂いを帯びた表情で、牢屋の中にいた十数名の女の子を一人ずつ見つめた。
「船長に連れていかれた者たちは皆、自害しました。貴女達に、そんな選択して欲しくないの」
「ですが、姫……」
「次の犠牲者が出る前に、無事に逃げた何人かが海軍にたどり着けば……大丈夫。きっと助けに来てくれるわ」
女の子達がひそひそと話している時、カツカツと靴の音が聞こえてくる。
「シェラザード。オレの言う事をきかないとは相変わらずいい度胸だな」
そう言ったのは、黒い髭を長く伸ばしたいかにも海賊っぽい衣装を着た屈強そうな男だった。
「エドワード船長。私に何か用ですか?」
「お前、女達を逃したろう?」
「当たり前です。他の子も、早く故郷に返すべきです」
「気の強い女は嫌いじゃない。開けろ」
エドワードと呼ばれた男は、見張りに鍵を開けさせた。
「ひっ……」
エドワードが中まで入ってくると、女の子達が息を呑む。
「シェラザード。お前は最後だ。もうお前の侍女達はいないし……さて、次は誰にするかな?」
シェラザードの自分を抱える手が力を帯びる。
「お前、何で裸? 丁度良い。お前にしよう」
「……っ……」
グイッと強い力で腕を引かれて、息を詰める。
「おっ。これは上玉だな」
エドワードが、こちらを見つめて口の端を釣り上げた。
「やめなさい! その子は既に怖い目にあっているのよ!」
シェラザードとエドワードに挟まれる。
「知ったことか。お前が"聖女"の場所を教えるまで、お前の言う怖い目とやらは続くだろうよ」
エドワードはそう言い捨てると、まるでシェラザードの反応をみるように、自分の身体に腕を絡めてくる。
「震えているのか? 安心しろ。優しくしてやるから」
耳元で囁かれて、ビクッと身体が跳ねた。
「さあ、この子を壊されたくなければ"聖女"の場所を教えるんだ」
「……」
悔しそうに唇を噛み締めるシェラザード。
「そうか。そりゃ残念だ」
エドワードは言い残すと、自分を抱えるようにして、その場を去った。