第一章(1)『死神』
着いた先が、唐突に肌寒い林の中だったので驚く。
「まだ女がいるぞ! 早く捕まえろ!」
男達の叫ぶ声が、あちこちで響いていた。
まさか自分の事だとは思わず辺りを見回すと、駆けて来た男が自分の姿を捉えて下品な笑みを浮かべた。
「そんな格好で逃げたって無駄だよ。お嬢ちゃん。誰にヤラれたんだい?」
赤ら顔の髭面の男がそう言って羽交い締めにしてきたので、自分が裸だという事に今更ながら気がついた。
「ここで痛い目あいたくなけりゃ大人しくしな!」
髭の男にそう言われたが、努めて大人しくしなくても、こちらに生まれおちたばかりで手足に力が入らない。
そうこうする内に、近くにあった大きな屋敷の地下牢に連れて来られて、鍵を閉められた。
足や尻に石の冷たい感触が当たって身震いした時。
「大丈夫?」
すでに中には何人かの女の子たちがいて、身を寄せ合っていた。
その中の一人が、自分に問いかけてきたのだ。
「……だい、じょうぶ……」
ここに来て初めてしゃべったが、それは鈴が鳴るような驚くほど綺麗な声だった。
「本当に?」
声をかけてきた子は赤い髪に深い青い目を持った美しい女の子で、十七歳くらいだろうか? 他の子と同じく上半身は裸で、下半身には薄い布で出来た心許ないスカートを履いているのだが、首飾りや腕輪などの高価そうな装飾品を身に着けているのが薄暗い中で見えた。
「こちらへ来て?」
少女は手を伸ばしてくる。
しかし何度も言うようだが手足に力が入らず、立とうと努力してみるが上手くいかず、最終的には諦め、そのままその場にうずくまる。
最初から、この状況はキツい。
「……うっ……くっ……」
赤子のように泣き叫びたい衝動にかられるが、意志の力で何とか嗚咽に留める。
例え送るのが最後だったとしても、世界に突然放り出すのではなくて、ちゃんと親の体内から順序通りに始めて欲しかった。
『あんの野郎。なんで、こんなけったいな真似すんだ』
愚痴の一つでも言ってやらないと気が済まなかった。
しかし実際に口から出たのは、次のような台詞で。
「神よ。何故、このような試練を与えたもう」
「可哀想に……」
小さな声と共に、女の子の柔らかくて温かい温もりに包まれた。
それが、とても心地良かった。