序章
「生体の残りがないから、今回はコレで」
目の前の白衣を着た金髪碧眼の超美形な男が、透明なカプセルの前で、そう述べた。
カプセルの中には、綺麗な顔をした十五歳くらいの金髪の女の子がいて、培養液の中で眠っている。
そこは、いつもは封鎖されている部屋で。
『戦いに行くのに、この身体かよ』
その身体では、幾ら鍛えた所で、とても自分の力が繰り出せるとは思えなかった。
「言っただろう。他にないんだ」
実に素っ気ない美男子。
『ないなら、休みが良いんだけど……もう随分、休んでないし』
先の任務が激務だったので、未だにその疲労が抜けていなかった。
目覚めたら仲間達は出撃後だったという訳である。
「人手が足りない。戦えなくても、キング達のサポートくらいは出来るだろう?」
『俺にサポートしろってのか』
破壊神と呼ばれ、恐れられているこの俺がサポートだと?
すると何を思ったのか、美男子は、つ……と銀縁眼鏡の位置を直した。
「誤解のないように言っておくが、これは女性ではない」
『でも、どう見ても男じゃないよな?』
「中性だ」
『中性? ナニソレ』
初めて聞いた。
「転生枠から外れてるんだ」
転生枠から……子を成せないという事か?
そう疑問に思っていると、美男子が更に謎めいた言葉を紡いだ。
「新たな選択肢とでも言っておく」
『はぁ?』
「良いから早くしろ。こうしてる間にも時は刻まれている。お前が最後なんだから」
急かす美男子を睨めつけた後、仕方なく一人残った中性体の中に入り込む。
「エース。任務を復唱せよ」
美男子の声が、酷く遠くで聞こえた。
「……魔王の討伐、勇者の援護……」
ぎこちなく動く、この身体。
本当に大丈夫か?
「よし。今回はお前だけ極秘で"聖女の子供"の護衛をメインで頼む。極秘任務だぞ。他は放っておいて構わない」
――"聖女の子供"って、まだるっこしい事言ってるが、つまり"勇者"だろ?
「……わかった……」
「もう一度、念を押しておくが、私以外は誰にもエースだと悟られないように。では、出発」
何だと?
と思ったが、後の祭り。
不気味な機械音と共に、世界が暗転した。
☆投稿の仕方が分からず、お試しでアップしてしまいました。