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*6*

気づけば固い病院のベッドの上だった。

母親の話によると、俺は体温が下がっていて気を失ったらしい。

もう少し遅れていたら、死んでいたそうだ。

後もう少し遅ければ、俺は、俺は・・・・・・死ねた。

昌平の元へ行くことができたのに。

母親が病室に入ってきた。

「・・・・・・昌平君の事は残念だったけど、

あんたまで、命を無駄にしてどうするの?」

  ──命を無駄にしてどうするの?

この言葉が俺の脳に突き刺さった。

「昌平君も、拓郎が死ぬことなんて望むはずないでしょう?

昌平君の分も生きるのが、あんたの償いだと思いなさい。」

俺が昌平の分まで生きる・・・・・・。

「それじゃあ、家に着替え取りに行ってくるわね。

2日は入院しないと駄目らしいから」

そう言い残して母親は病室から出て行った。


昌平は俺が生きてるのが憎いのではないか。

その考えは間違っていたというのか?

俺は、俺は・・・・・・。

頭をかかげ、ただただ何もできない自分。

自分は、この世に存在していいのか。

それすら、もう何もかもわけが分からなくなってきた。



2日後俺は退院した。

明日は昌平の葬式だ。

正直行きたくなかった。

昌平の遺影など見たくなかった。

見るのがつらかった。

でも行かなければいけない。

行かないと俺が俺自身でいられないと思うから。

葬儀にはすでに人がたくさん来ていた。

後悔しているクラスメイトはいったいどのくらいいるのだろうか。

俺もその中の一人だ。

列に並ぶと、一番前にいたのは、昌平をからかっていた男子生徒だった。

「・・・・・・昌平!すまない!俺が悪かった!本当に本当に俺が悪かった・・・・・・

俺があんなこと言わなかったら昌平は、昌平は!!」

泣き崩れていた。

どれだけ、どれだけ言っても、昌平は帰ってこない。

それをわかっていても、どうしても謝る。

人間というのは、そういう生き物だ。

事が起きてから、事の重大さを知る。

俺の番がやってきた。

横を見ると、昌平の両親、そして1歳くらいの妹が座っていた。

両親は泣いていたが、妹は、何がなんだかわかっていないようで、

きょとんとした顔で指をしゃぶっていた。

遺影の昌平は、笑っていた。

この写真はきっと、修学旅行の時、昌平と俺で撮った写真だったと思う。

「・・・・・・拓郎君」

ふと名前を呼ばれた。

呼んだのは、昌平のお母さんだった。

昌平のお母さんは、泣くのを我慢して、震えた声でこういった。

「昌平の机から、遺書が出てきたの。

私達はまだ読んでいないんだけど、これは最初に拓郎君が読んだ方がいいんじゃないかって

夫と決めたんです。」

と、一通の手紙を手渡された。

封筒には「遺書」と書かれていた。

中を開けて俺は読んだ。

「お父さんお母さんごめんなさい。

俺はもう耐えきれない。

万引きという濡れ衣を着せさせられて、生きていけない。

みいもごめんな。

お兄ちゃん、情けないよな。

もっといっぱい遊んでやりたかった。

もっといっぱい話したかった。

お父さん、お母さん、15年間俺を育ててくれてありがとうございました。


それと拓ちゃん。

拓ちゃんがこれを見るときには俺はこの世に絶対いないだろう。

拓ちゃんと初めて会ったのは小1の時だったな。

あの時はすっごい意気投合してびっくりしたよ。

そして、拓ちゃん。

俺は、拓ちゃんを恨んでいないよ。

あの場で仲間意識なんて持てるわけないもんな。

俺でもそうしたと思う。

拓ちゃん、今まで本当にありがとう。」

手紙を持つ手が震える。

目から一粒の汗が零れ落ちる。

いや、汗なんかじゃない。

涙だ。

いつ以来に泣いただろうか。

覚えていない。

どんどんこぼれてくる。

俺の悲しさ、悔しさがつまった涙。

「昌平ごめん!昌平ごめん!昌平ごめん・・・・・・。」

俺は泣き崩れた。

「拓郎君、顔をあげて?」

昌平のお母さんにそういわれ顔を上げた。

「あなたにお願いがあるの。

昌平の分まであなたに生きてほしい。

そしてこれ・・・・・・」

渡されたのは、大きいプレゼントの包みだった。

「あなたもうすぐ誕生日でしょう?

昌平が用意していたみたいなの。受け取って頂戴。」



葬儀から帰ってきた。

昌平は俺に何を渡したかったのだろう。

俺は包みを開けた。

中からは俺が欲しかったテレビゲーム機、IJが入っていた。

「これ・・・・・・高かったのに・・・・・・!?」

昌平・・・・・・。

嬉しさ、悲しさ、喜び、怒り、喜怒哀楽が全てつまった涙を俺は流す。

俺は前向きには生きられないかもしれないけれど

昌平の分まで生きようと決意した。










「そんなことが・・・」

ローズは驚いた顔を見せる。

「俺はあの日以来人とかかわるのが怖くなった。

もう誰も失いたくない!俺の一言で」

「拓郎さん、今ゲームをプレイしてください」

「こんな状況でできるわけ・・・・・・」

「いいから!!」

渋々俺はゲーム機の電源を付ける。

そして、ゲームの中の俺の家のチャイムが鳴る。

玄関を開けると、立っていたのは・・・・・・。



昌平だった。

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