*5*
「拓郎さん・・・・・・何かあったんですよね。
私に教えてもらえませんか?あ、無理だったらいいんですけど。」
ローズが電源を切ろうとしていた時。
「・・・・・・あれは、2年前の事だった。」
──2年前
俺は中3で、友だちもたくさんいた頃。
俺には北平昌平という、小学校からの親友がいた。
昌平とはとても気が合うし、何でも話し合える仲だった。
「なあなあ拓郎!昨日発売のリーコのCD買ったかよ!?
あれめっちゃいいよな~!」
「ああ、買った。Lastっていう曲が一番よかった」
「だよな!俺もそれいいと思ってたんだ!」
俺たちは笑い合っていた。
いつまでも仲良しだと思っていた。
ところがある日、昌平が万引きをしたという噂が
学年どころか、学校中に広まっていた。
昌平が教室に入ってきたとき、
教室中は静まり返っていた。
そして一人の男子がこういった。
「万引き犯が脱獄してるぞー!皆ニゲロー!」
ドッと笑い叫びが起きた。
「待ってくれ!俺は万引きなんてしてない!
絶対にしてない!信じてくれよ!」
昌平が必死に叫ぶ。
誰も昌平の声には耳を傾けようとしない。
俺は片隅でその状況を見守るだけだった。
昌平は俺のところに来た。
「なあ!?拓郎は信じてくれるだろ!?
俺たち親友だよな・・・・・・!?」
昌平は涙で顔がぐちゃぐちゃになっていたことだろう。
俺ははっきりと見ることができなかった。
「どうなんだよー鈴木ー!」
「鈴木あんた北平の親友でしょお?」
「万引き犯の親友答えをどぞ!」
俺が出した答えは・・・・・・
「近寄らないでくれ。」
昌平はこの一瞬でどれだけ絶望を見たことだろうか。
きっと、親友に裏切られるというのは、
この世で一番絶望なのではないかと俺は思う。
俺は、自分可愛さだけに、
昌平を裏切った。
将来もあったし、犯罪者をかばうのは内申書に響くと思ったからだ。
俺はこの日屑になった。
翌日。
担任から、昌平が死んだという報告があった。
クラス中が動揺に陥る。
そして、昌平は万引き犯ではないということも警察の調べで分かった。
万引きをしたのは他の人で、昌平はただ、本を見ていただけだった。
昌平は、これ以上話しても誤解は解けない、一生犯罪者として濡れ衣を着せさせられたまま
生きていくことはできない、そして「自殺」という楽な道を選んだ。
俺は、何も言葉が出なかった。
感情も、涙も、何も出てこなかった。
頭の中が一瞬で何もかも白く塗りつぶされたようだった。
クラスメイトも、
泣いている人もいれば、黙り込んで頭をかかえている人もいた。
昨日面白半分に昌平に野次を飛ばしていた奴も震えながら頭をかかえていた。
自分のやった重大さに気づいたのだろう。
でもこいつよりも、俺がやったことの方が重罪だ。
俺は教室を飛び出した。
「ちょっと鈴木君!どこに行くの!?」
担任の声など俺の耳に入らなかった。
俺は全力疾走した。
これまでにないくらい。
いつもならとても遅いのに
この時だけは速く走れた気がした。
どこまでも、どこまでも行ける気がした。
「なあ、お前の前だけでは拓ちゃんって呼んでもいいか・・・・・・?
あ、別に変な意味じゃねえぞ!」
「拓ちゃん、弁当忘れたな?ははは、俺のちょっとやるよ!」
「俺たち、これからもずっと友達だよな」
「信じてるよ、拓ちゃん」
しばらく走っていると、川辺についた。
俺はそこを滑り落ちて、川に近づく。
「うわああああああああああああああああああ!!」
叫びつくす俺。
周りから見れば、頭がイカれた奴に見えるかもしれない。
けれど、叫ばずにはいられなかった。
「昌平ごめん・・・・・・ごめんっ・・・・・・。」
俺があのときあんなこと言わなければ、
昌平は飛び降り自殺なんてしなかったはずだ。
俺のせいだ。
・・・・・・俺が死ねばいいんだ。
気温0度。
俺は川の中に入っていく。
どんどん深くなっていく。
このまま進んでいけば俺の身長を水は超え、
きっと窒息死できるだろう。
昌平、待ってろ。
俺も今行く・・・・・・!
寒いのなんて気にならなかった。
あっちの世界でも、昌平とまた仲良くできるのなら、
こんなの・・・・・・!
「何やってるの!!」
近くを通りかかった中年のおばさんが俺のところに寄ってきた。
そして後から、数人やってきて、俺を止めに来た。
川から引きずりだされたとき、
何で俺なんかをこの人達は助けたのだろうと疑問に思った。
そして、俺は深い眠りについた。
必死に叫ぶ声が聞こえたけれど、
返事する余地などなかった。