99.純粋に君に一目惚れ
99.純粋に君に一目惚れ
琴音の夫、伸行は高校、大学とラグビーをやっていた。社会人のチームからのスカウトもあったそうだが、大学を卒業すると新聞社に就職した。根っからの体育会系でラグビーをやっていただけあって体格もいい。琴音は美大からインテリアコーディネーターの専門学校を経て設計事務所に就職した。
二人が知り合ったのは、国立競技場だった。スポーツ観戦が好きだった琴音がラグビーの日本選手権を見に行った時だった。伸行は記者として取材のために来ていた。
伸行が取材を終えて帰ろうとしていたところに、観客に押されて階段から落ちそうになった琴音を助けたのが二人の始まりだった。その時、伸行は趣味で撮影するために持って来ていたカメラを落として壊してしまった。琴音は弁償するからと言ったのだけれど、そのカメラの値段を聞いてため息を漏らした。
「大丈夫ですよ。カメラはまた買えばいい。それよりも、僕にとって、君に出会えたことが何よりも幸運だ」
「あら、私をナンパしようとしているの?カメラは弁償しますから。変な理由で私に付きまとわないでください」
琴音はそう言うと、その足で伸行とカメラ店へ行って、同じカメラをクレジットカードで購入した。カメラを渡すとそのまま帰って行った。伸行は茫然とその後姿を見送った。
康祐は苦笑して琴音を見た。
「変に気を遣ってくれなくてもいいよ。君がご主人をとても愛しているのはみんな知っているし、僕も妻を愛している」
「ええ、彼をとても愛しているわ。今も、これからも、それは変わらないわ。けれど、二人を同時に好きになることだってあるわ。出会いの順番は自分では決められないけれど、出会ってしまったら、自分の気持ちに正直でいの」
「君はとても素敵な女性だと思うけれど、僕にとってはあくまでも仕事のパートナーだよ」
「いいのよ。それで。本当の男の人って、そう言う生き物だと知っているから」
クレジットカードの支払いはきつかった。貯金がほとんどなくなってしまった。そんな時、彼が書いた記事を読んだ。それ以来、羽田伸行と言う人物に興味を持つようになった。けれど、もう、会うことは二度とないのだとも思っていた。そんな時、偶然なのか運命なのか、仕事で訪れたスポーツジムで彼を見かけたのだ。声を掛けてきたのは伸行だった。
「ナンパだとか、そんなチャラけた気持ちはこれっぽっちもなかった。純粋に君に一目惚れしてしまったんだ」
そう訴える彼の目に琴音は引き込まれていった。




