98.あなたのことが好きになったみたい
98.あなたのことが好きになったみたい
二度目の出産はスムーズだった。病院に入ってからは、流れ作業のようにトントン進んであっという間に生まれた。どちらかと言うと、博子の方によく似た男の子だった。陣痛が始まったのが早朝だったため、その日、康祐は仕事を休んで出産に立ち会った。
「どうせ、居ても役に立たないんだから、わざわざ仕事を休まなくてもよかったのに」
芙美香にからかわれながらも、康祐は博子の傍から離れなかった。
「まったく、こっちが恥ずかしくなるくらい仲がいいわね。この夫婦は」
「私も佐久間さんみたいな人と結婚したいなあ」
そう言って芙美香と話をしているのは病院の若い看護師だった。
「佐久間さんって、ウチの看護師の間では評判なんですよ。」
「あっ!それって、もしかしてあの事件?」
「はいそうです!あの事件です」
あの事件と言うのは、優介が生まれた時のことだ。看護師に準備をしておく様に言われた康祐は博子の部屋に備え付けてあったテレビと冷蔵庫以外の生活用品を全て持ち込んできた。着替えはタンスごと、掃除機やミニコンポ、パソコンに雑誌や本を本棚ごと等々。病院と自宅を何回も往復して運び込んだのだ。まるで、病院に引っ越して来たようだった。そして、まさに、退院の時は引っ越し業者に荷物の引き上げを頼んだのだった。
そのことを言われると、今でも康祐は顔が赤くなる。けれど、その時から、この病院で康祐のことを知らない者は居なくなった。
二人目の子は博子の父親から一文字取って“亮介”と名付けた。
打合せで何度も話をしているうちに、琴音は康祐の魅力がなんとなく解かって来た。
「そう言えば、私と佐久間さんって、同じ年なのよね」
「そうでしたっけ?」
「そう言えば、あれも、送別会の日だったけど、覚えているかしら?私があなたの様な人は好みじゃないって言ったこと」
「本気でそう言ったのではないのでしょう?」
「ううん、本当に嫌いだったの。あなたみたいな人。でも、撤回させてもらうわ。私、あなたのことが好きになったみたい」
「えっ?」




