97.女性に縁がない
97.女性に縁がない
1年後、琴音はフリーのデザイナーとして、引っ張りだこだった。ティーエムアーキテクトの仕事をメインに複数のクライアントを抱えていた。初めて康祐とチームで仕事をすることになった琴音はティーエムアーキテクトを訪れていた。
「このところの活躍はすごいですね。主婦業との両立は大変じゃないですか?」
「その辺はちゃんとセーブしているわよ。それがフリーのいいところよ。欲をかかなければ、自分で仕事をセーブできるもの」
「こちらとしては、イライラさせられることもありますけどね」
「あら、私よりできる人はたくさん居るわ」
「でも、この物件は施主があなたを指名してきたので、僕も何とか相手を説得して待って貰ったんです。なので、期待してますよ」
「ご期待にお応えできるよう、精いっぱいやらせてもらいます。ところで、二人目が生まれたんですって?」
「そうなんですよ。多分、あなたの送別会の夜に」
「あら!そうなの?」
送別会と聞いて、琴音は一瞬だけ高田のことを思い出した。けれど、もう忘れた。高田とは今では普通に仕事のパートナーとして付き合っている。それだけだ。
打合せを終えて事務所を出ようとした琴音に奈美が声を掛けた。
「琴音さん!お久しぶりです。少しお時間ありますか?」
「大丈夫よ」
「もう、終わりなので、少しだけお茶に付き合ってください」
奈美は琴音に九段下のスターバックスで待つように頼んで、残りの仕事を片付けた。
琴音は窓際のカウンター席に居た。奈美は店の外から手を振ってすぐに琴音の隣にやって来た。
「お待たせしました」
「今日はどうしたの?何か相談事?」
「はい、実は…」
声を掛けられてから予想はしていたのでけれど、奈美が山岡と付き合っているのだと言う。そして、プロポーズをされたのだけれど、迷っているのだと。
「ふーん、そうなんだ。この会社、つくづく女性の事務員に縁がないのね」
そう言って琴音はクスクスと笑いだした。




