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96.一度だけ

96.一度だけ


 康祐が家に帰ると、博子が優介を抱きかかえるようにして横になっていた。丁度、優介が寝付いたところだった。

「あら、早かったわね」

「うん。早く優介の顔が見たくてね」

「まあ!じゃあ、私は居なくてもいいのね?」

「バカだなあ、君は特別だよ。聞くまでもないことじゃないか」

 康祐は起き上がった博子を抱きしめてキスをした。

「愛してるよ」

「私も」

 そう言って、今度は博子が唇を求めてきた。

「もう一人くらい欲しいよね」

「えっ?」

「尾崎さんの所も二人だし」

「だって、産んだばかりじゃないか」

「私なら平気よ。ほら、優介もちょうど寝たところだし」


 これが最初で最後だと琴音は決めていた。ここに来る前、康祐が言った言葉が甦ってくる。琴音が康祐と博子は仲がいいと言った時だった。

『僕は一生、彼女に恋をし続けるんだと思う』

 琴音もそれが夫婦として理想なのだと思った。そして、子供が二人で来た今でも琴音は夫を愛している。今でも夫に恋をしているのだと、きっぱり言い切ることが出来る。けれど、結婚する前から憧れていた人が今、目の前に居る。当時、面識はなかったのだけれど、その時は確かに高田に恋をしていた。十数年経って、高田に会った時、その時の想いが甦ってきた。一度だけ…。一度だけなら許してくれるだろう。もっとも、このことを夫に告げることは無いのだろうけど。

 すでに、裸でベッドに入っている琴音のもとに、シャワーを浴びた高田が入って来た。1時間ほどの逢瀬がとても長い時間に感じられた。琴音の体はこれまでにない喜びを感じていた。


 琴音が帰宅すると、夫が一人で晩酌をしていた。琴音が遅くなるからと、早く帰って来て子供たちを寝かせてところだと言った。琴音はビールグラスを持ちだすと夫の向かいに座った。夫は優しく微笑みながらビールを注いでくれた。







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