94.モテ期
94.モテ期
結局、その後の食事はぎこちないものになってしまった。帰りは高田に貰ったタクシーチケットを使わせてもらった。豊洲に住む高田が送ると言ってくれたのだけれど、このまま二人きりの時間をやり過ごす自信が琴音には無かった。
午前中、吉田奈美の仕事ぶりを見ていて琴音は思った。これは拾いものだと。この子が今まで就職できなかったとういうのが信じられなかった。彼女は大学を卒業したばかりで未だに内定の一つも貰っていなかったのだと言った。
「私って、いつも最終面接までは残るんですけど、余計なことばかり言っちゃって、最後は落とされるんですよ。それに、ブスだし」
確かに、無駄口が多いのは否めないし、言葉使いに少々難があるようだ。いまどきの若者と言ったところなのだろう。けれど、ここでの電話対応には問題ない程度のものだし、事務の仕事に関しては必要な資格も持ち合わせているし、頭の回転も速く、あっという間に覚えてしまった。あとは決算時期にその辺りの指導を再度、誰かにしてもらえば、そこら辺の会社で威張り腐っている管理職よりは、はるかに使える。
今時、採用条件に美人かどうかが選択肢の一つに入っている企業などはないと思うが、奈美が自分でもいう様に彼女は決して美人とは言えない。けれど、そのせいで面接で落とされると言われれば理不尽だとは思いつつも納得してしまうかもしれない。
何はともあれ、琴音の仕事は終了した。高田も奈美の仕事ぶりに及第点を与えた。
「さあ、出かけようか」
高田が号令をかけると、社内に居た連中は、待ってましたとばかりに全員、立上った。
歓迎会では独身の連中が奈美の周りを囲んでいた。
「君が今まで就職できないでいてラッキーだったよ。おかげで僕と会えたんだから」
いち早く波の隣に陣取った森田が言った。森田は入社3年目の26歳。もちろん独身。
「その言い方は失礼だろう。ここに入ったのは運命だったんだ。俺と出会うためのね」
逆サイドの山岡が反論する。山岡は森田の1年先輩で27歳の独身。
「皆さん、お世辞が上手ですね。私なんかにお世辞を言っても何の得にもなりませんよ」
輪の真ん中で恥ずかしそうに奈美が言う。後で席を離れた奈美は琴音に言った。
「なんだか、人生で初めてのモテ期が来たみたいです」
「気を付けなさい。みんないい人達だけれど、給料は高くないわよ」
「そっか!そこ大事ですよね」
奈美が明るく笑いながら去っていくと、高田は琴音にメモを渡して席を立った。
「すまん!用事があるからこれで失礼するよ。あとはみんなで楽しんで」




