90.オープン
90.オープン
康祐が現場の定例打合せを終えた5時過ぎ、麻美から電話がかかって来た。尾崎の店でディナーをと言う事だった。康祐は快諾して博子に電話した。博子はもちろん、了承してくれた。康祐は打合せの議事録をまとめると、大手町の現場を後にした。
康祐が店に到着すると、既に麻美が夫婦そろって席に着いていた。
「お疲れ様。峰岸があなたのことをすごく褒めていたわよ」
「そうですか。僕はただ、精いっぱいやれることをやっているだけです」
「私も君には感謝しているんだ。麻美とこうやっていられるのも君のおかげなのだからね。年甲斐もなく、若いカップルのような気分でいられるよ」
康祐は麻美の夫の宗太郎と面と向かって話をするのははじめでだった。
「僕は何も…」
康祐が言いかけた時、尾崎が席に来て挨拶をした。
「今日はわざわざお越しいただきありがとうございます。佐久間さんはお昼にも来ていただいて本当に感謝しています」
「あら、佐久間さん、お昼にも来たの?」
「ええ、とても盛況で開店前から1時間並びましたよ」
「まあ、それはすごいじゃない」
「すべて若杉さまのおかげです」
尾崎は麻美に深々と頭を下げた。そして、今日のメニューについての説明を始めた。
芙美香は博子を訪ね、優里を預けた。
「本当に大丈夫ですか?」
「気にしないでいいのよ。ご主人の晴れの舞台ですもの。ゆっくりしてくるといいわよ。うちのパパもお邪魔しているみたいだし」
芙美香は博子に何度も頭を下げて、優香と共に尾崎の店へ出かけて行った。
さすが、ジェノアで働いていただけあって、尾崎の料理はどれも美味かった。それをこの値段で提供できるというのが尾崎のオーナーシェフとしてのすごいところでもある。康祐も麻美夫妻も満足して席を立った。
そして、入れ替わるように店にやって来たのは芙美香と優香だった。康祐の顔を見ると、優香が手を振った。康祐も優香に手を振って店を後にした。




