9.嬉しいけれど、寂しくもある
9.嬉しいけれど、寂しくもある
康祐が理恵と会うのは半年ぶりだった。別れてから2年、理恵は相変わらず仕事に生きがいを感じていると言った。
「あなたはどうなの?子供を産んでくれそうな人は見つかった?」
理恵は康祐が子供を欲しがっているのだと思っているらしい。
「別に、子供にこだわっているわけではないさ」
「そうなの?」
「いらないとは思っていないけれど…」
そう、正直な話、子供は欲しい。理恵にそれは望めなかった。別れた原因はそこにあったとも言える。
「それはそれで、まだ私に未練があるわけではないのでしょう?」
未練?ないとは言い切れない。しかし、岩崎博子の出現はある意味でその“未練”を断ち切るだけの出来事であるかのような気がする。今日、康祐が理恵と会ったのはそのことを伝えようと思ったからだ。
「実は、気になる人がいる」
「あら、良かったじゃない」
理恵は祝福してくれた。さらに「逃がしちゃダメよ」と励ましてくれた。そのことは素直に嬉しかったが、同時に寂しくもあった。理恵と一緒に過ごした時間は決して長いものではなかった。けれど、康祐の中では最も充実していた時間だった。
「君は再婚する気は無いのか?」
「そうね…」
理恵は少し考えてから続けた。
「今のところは。もしかしたら、一生結婚はしないかもしれないわ」
「歳を取った時に一人だと寂しいぞ」
「そうね。でも、恋をすることはいくつになってもできるわ」
「そうだね。そういう生き方は君には合っているかもしれない」
岩崎博子が働き始めて一か月たった。歓迎会での彼女の“衝撃”の告白の後、特に二人の関係は進展しなかった。社内ではごく普通に接するだけだった。かといって、プライベートで会ったりすることもなかった。
結局、社交辞令だっただけなのか…。康祐がそう思い始めた頃、博子からメモを渡された。
『今夜、空いていますか?』
そのメモには待ち合わせの場所と時間も記されていた。