86.息子
86.息子
明け方、博子は子供の泣き声で目を覚ました。おむつを替えて、子供をあやしながら抱きかかえ、おっぱいを与えた。
子供と一緒に退院してからは、康祐は書斎で寝ている。夜泣きする子供のせいで康祐が睡眠不足になって仕事に差し障るのを博子が心配し、そうするように提案したのだ。
子供はお腹が膨れると、機嫌が良くなった。博子は子供を布団に置くと、キッチンに出てきた。冷蔵庫から野菜ジュースを出すとグラスに注いだ。それを口に運んだ瞬間、玄関のドアが開いた。
「あら!今帰ったの?」
「優介は寝てるのか?」
「今、起きておっぱいあげたところよ」
「ちょっと見てきてもいいか?」
「なにバカなこと聞くのよ。自分の子供じゃない」
康祐は寝室に行くと、布団の上で仰向けになってごそごそ動いている息子をながめた。康祐が見ていると、優介は笑って康祐の方を見た。
「おい!今、優介が笑ったぞ。俺を見て笑ったんだ。俺のことが判るんだなあ」
「バカねぇ。まだ見えないのよ」
「そうなのか?だって、ちゃんと目を開けてるのに?」
博子にそう言われて、康祐は優介の顔の前で手を振って確認してみる。
「ふーん、見えてないのか…」
「疲れたでしょう、早く着替えてらっしゃい。朝ごはんはどうする?寝てる?」
「食べるよ。シャワー浴びたら、僕が優介を見てるから博子はゆっくりすればいいよ」
「ありがとう。でも、そろそろ朝ごはんの支度をしなくっちゃ」
和美はさっきまで康祐と一緒に居たファミリーレストランで朝食を取っていた。スクランブルエッグとソーセージのセットを食べながら窓の外の風景を眺めていた。土曜日だということもあって、平日ほど人の行き来は無い。
「本当にいい人だわ…」
康祐は結局、6時近くまで和美に付き合ってくれた。それから、地下鉄の東西線で帰って行った。和美はこの席で康祐を見送った。
「さて、帰って一眠りするか!」
和美は大きく伸びをすると、残っていたコーヒーを飲み干した。




