82.複雑な想い
82.複雑な想い
俺はいったい何をやっているんだろう…。宮下は頭を抱えて苦笑した。いくら、和美のためだとは言え、これじゃあ、和美が他の男とくっつくのを助けているだけじゃないか。和美は宮下に感謝するかもしれないけれど、それではただの“いい人”で終わってしまう。だからといって、二人の邪魔をするほど、嫌味な男に成り下がるようなまねはしたくない。
このところ、和美は毎日のように宮下を昼食に誘う。達雄のことを相談するためだ。
「じゃあ、松井さんって、けっこう優雅な生活をしているのね」
「そうだと思うよ。君を部屋に呼ばないのは、多分、今の所が事務所兼用で、人を呼ぶほど広くは無いからだと思う。それでも、仕事柄、それでも十分だと考えているからじゃないかな」
「それなら、少し待ってと言ったのはどういうことだと思う?」
「多分、引っ越しを考えているんじゃないかな」
「引っ越し?私を部屋に呼ぶために?」
「多分ね。あくまでも、憶測だけど」
宮下が達雄のことを報告するたびに、和美は嬉しそうな顔をして聞いている。和美のそんな顔が見られるのは嬉しいけれど、宮下の気持ちは複雑だった。
峰岸コンツェルン本社ビルの耐震工事が始まって、康祐は殆ど現場に詰めていた。書類のやり取りなどはメールで行い、会社に顔を出すことも殆どなかった。その日は高田が康祐に子供が出来たお祝いをしてくれると言うので、久しぶりに会社へ顔を出した。
「主任、お久しぶりです。主任の顔が見られなくて寂しいです」
康祐の顔を見るや否や、和美はすぐに駆け寄った。
「ああ、僕も笹田さんの顔が見られなくて寂しいよ」
「じゃあ、今夜はずっとそばに居てあげます」
「ずっと?」
「ええ!ずっと!」
康祐は先日の和美の行動を思い出して、少し、身構えた。そんな康祐の様子を感じ取ったのか、和美はすぐに言葉を足した。
「冗談ですよ。主任のそう言うところ、好きだなあ」
和美はそう言いながらも、康祐の腕にしがみついた。
そんな和美の様子を見ていた宮下は、だんだん腹が立ってきた。他に好きな男が居るのに、違う男にもちょっかいを出すなんて…。




