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80.愛人でもいい

80.愛人でもいい


 和美の心中を察したのか、その日の達雄は落ち着きが無いように感じられた。映画を見ている最中も、いつもの様に一喜一憂することもなく、ただまっすぐにスクリーンを見ているだけだった。

「ねえ、どうかしたの?」

「ああ、ちょっと考え事をしてる」

「何か心配事でもあるの?それなら、今日のデートはお開きにしましょうか?」

「いや、そのことを考えていた」

「そのことって?」

「この後どうしようかってね。もし、僕がホテルに誘ったら君はOKしてくれるだろうか、そんなところに誘おうとする僕を君は嫌いになったりしないだろうか…。とかね」

 達雄の話を聞いた和美はすぐに席を立った。

「やっぱり嫌われたかな?」

「早く行きましょう」

 和美は達雄の手を引いて映画館を出た。


 達雄はホテルのベッドでタバコをふかしていた。和美はそんな達雄の体にしがみついている。

「私、愛人でもいいよ」

 和美がそんなことを言った。

「僕はそんなつもりはないよ」

「だって、松井さんには奥さんが居るんでしょう?絶対、部屋には誘ってくれないし」

「もう少し待ってもらっていい?」

「まさか、奥さんと別れるなんて言わないでよ」

「別れるもなにも、僕は独身だよ。今は君を連れて行く部屋が無いだけ」

「えっ!まさか、ホームレスなの?」

「まあ、そんなところだ」

 和美は驚いた顔をしていたけれど、達雄は冗談だよと笑って見せた。


 達雄は青山に居た。不動産屋と一緒に物件を見に来ていた。デザイナーズ物件の洒落たマンションだった。2LDKと手ごろな間取りだった。達雄は即決で契約をした。

 達雄が今住んでいるのは同じ青山でも、10坪ほどのワンルームだった。インターネットで輸入品の売買を手掛けている達雄にはパソコン1台あれば広い部屋など必要はなかったからだ。それに、部屋に連れてきたいと思う女性も居なかった。







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