76.違和感のないセリフ
76.違和感のないセリフ
達雄は遅い朝食を取った後、映画館に来ていた。先日見た映画をもう一度見ていた。見終わると、別の映画をもう1本見て時間をつぶした。
夕方、6時25分。待ち合わせをしていたファーストフードの店に入ると、相手は既に到着していた。
「レディーを待たせるなんて失礼ね」
そう言われた達雄は店の壁に掛けられている時計を指した。
「まだ時間前だけど」
「あら、そうね。でも、私を待たせたのは事実でしょう?」
達雄は苦笑しながら、和美の向かい側の席に着いた。
「はい。姫様のおっしゃる通りです。お詫びに今日はご馳走させていただけますか?」
そう言って達雄は和美の目を見つめた。和美も達雄の目を見つめた。そして、しばらくすると、二人同時に吹き出した。
「久しぶりだね」
「日曜日に会ったばかりじゃない」
「それが僕にとっては久しぶりなんだ。初めて会った時から君のことが忘れられない」
「まあ、よくそんなセリフを真顔で言えるわね。でも、違和感がないのが悔しいわ」
そう言って和美は身を乗り出すと達雄の唇にキスをした。
康祐と博子は『ジェノア』に来ていた。麻美が博子を気遣って、たまには美味しいものでも食べないとダメよと、二人を招待してくれたのだ。
「ここの尾崎と同じマンションに住んでるんですって?」
麻美は縁とは不思議なものだと感心しながら言った。
「彼はなかなか才能があるわ。近いうちに独立して自分の店を持つかもしれないわね」
「そうなんですか?麻美さん、援助されるんですか?」
博子の質問に麻美はフッと笑みを浮かべて答えた。
「まあね。大したことはできないけれど、才能のある人を応援してあげるのは私の趣味みたいなものだから」
そんな会話をしているときに、最初の料理が運ばれてきた。なんと、尾崎が直接それを運んで来た。
「若杉さま、いつもありがとうございます…」
いつものように尾崎は麻美に挨拶をした。そして、康祐たちに気が付いた。
「あれっ?佐久間さん?」
尾崎は康祐たちが麻美と一緒に居ることに驚いているようだった。




