75.おすすめ
75.おすすめ
休み明けの月曜日、宮下は和美が出社するのを上機嫌で待っていた。なんだかんだ言っても和美は自分のことを悪く思っていない。金曜日の夜のことを考えると、それ以上の期待を抱いていても失望させられることはないだろうと思っていたからだ。
和美が出社してくると、早速、声を掛けた。
「おはよう!」
いつもより明るく、笑顔で話しかけた。
「おはようございます」
和美は無表情でただ挨拶を返しただけだった。宮下は和美の受け答えがいつもと変わらないので少々がっかりしたが、会社の中では仕方がない。彼女は派遣社員なのだし。そう自分に言い聞かせて納得した。
朝から現場に直行していた康祐が昼前に戻って来た。いつもは弁当を持参してくる康祐も、こういう時は外食に出る。和美は短い期間の中で、そういうところをチェックしていた。
「主任、今日は外食に出られますよね。先日ご迷惑をおかけしたので私にご馳走させてください」
康祐が時計を見ると、既に正午を回っていた。和美は康祐の腕を引っ張ってエレベーターホールへ歩き出した。その様子を自分の席から見ていた宮下は苦笑して呟いた。
「調子に乗り過ぎたな」
食事を取る店は康祐に選んでもらった。店の前で和美は笑みを浮かべた。
「もしかして、ここが…」
「ん?知っているの?」
「ええ!佐久間さん、ああ、奥さんの方ですよ。から聞いていたもので。“おすすめ”だと。なので、一度来てみたかったんです」
「じゃあ、料理のことも知っているんだ?」
「もちろんです」
「ちぇっ!つまんないな」
「主任ったら、私をはめようとしていたんですか?私にはめるのは構わないんですけどね」
「おい!バカなことを言うんじゃない。今日はお詫びのつもりなんだろう」
「はーい」
和美は無邪気に笑い、とっとと店に入るとカウンター席に着いて食事を注文した。
「アジフライ定食とカツカレーを下さい」
そして、振り向くと、康祐に向かって微笑んで見せた。




