74.本当に面白い子
74.本当に面白い子
映画の前半は何人かの重要な登場人物たちが後半のクライマックスでつながるまでのプロセスを描いたもので、内容はかなり濃いものではあったが淡々と話が進んでいく。若い女性が一人で見るのには退屈なのかもしれない。自分の肩にもたれかかって眠っている女性をちらっと横目で見て松井達雄は思った。
そうこうしているうちに映画はクライマックスを迎えた。派手な戦闘シーンでは大音響とともに観客の驚きの声が上がった。隣の女性はそんなことなどとは全く関わりのない世界に居るように目を閉じている。
映画が終わっても、目を覚ます気配がない。とは言え、起こすのも可哀想なほど幸せそうにしているこの女性をどうしたらいいのか迷った挙句、達雄は起きるまで肩を貸すことにした。
目を覚ました和美は辺りをキョロキョロと見まわした。
「あれ?映画は?」
「一番面白いところを見逃してしまったね」
「どうして起こしてくれなかったの?」
「とても幸せそうに眠っていたから…」
「だとしても、映画を見に来たのに寝ちゃってたらシャレにならないでしょう!って言うか、あなた誰?」
「君は面白い子だね」
夕食には少し早い時間に来たので、店はそれほど込み合ってはいなかった。女性店員に4人用のボックス席に案内されると、男性の店員がすかさず子供用のいすを用意してくれた。優香はその椅子に座らせられると、大人たちと同じ高さの視線に満足しているようだった。
「好きなものを注文してください」
康祐がそう言うと、芙美香は恐縮しながらメニューを広げた。
達雄と和美は東口の炉端焼きの店に来ていた。その店の個室ブース。二人はグラスを合わせた。
達雄がお詫びをすると言って誘ったのだ。見そびれた映画をもう一度見たいから付き合ってくれるのなら、という条件で和美は達雄の誘いに応じた。
「君は本当に面白い子だね」
達雄はテーブルに両肘をついて、和美の顔をニコニコしながら眺めた。




