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72.それぞれの朝

72.それぞれの朝


 目が覚めると、キッチンの方からバターが焦げるいい香りが漂ってきた。博子の主婦姿もだいぶサマになって来た。

 康祐は久しぶりに休むことが出来た土曜日の朝にゆっくりと、そして、心地よく起きることが出来た。

「あら、せっかくの休みなんだからもう少し寝てればいいのに」

「せっかくの休みだから寝てるなんてもったいないよ」

 康祐は博子が用意してくれたフレンチトーストを一口かじってコーヒーを飲んだ。

「ねえ、あとで尾崎さんのところに行ってみようか?」

「そうだね。昨日のお礼も言いたいし」

「そう言えば、笹田さんは大丈夫だったのかしら?泊まっていけばよかったのに…。康ちゃん、なんか変なことしたんじゃないでしょうね!」

「まさか。酔いが醒めて冷静になったら迷惑だと思ったんじゃないかな」

 康祐の頭の中には一瞬、昨夜の和美の言葉(私ならいつでもお相手をしてあげますよ)がよぎってドキッとしたが、平静を装って反論した。博子は気にも留めていないように微笑んでフレンチトーストを口にした。

「あっ!おいしい。今まででいちばんいい出来だわ」


 宮下が目を覚ましたのは昼過ぎだった。亀戸のバーで和美と朝まで飲み明かした。始発電車が走り始める時間まで飲んでいた。そして、始発電車で帰ると言う和美を駅まで見送って自宅に戻った。

「失敗だったかな…」

 宮下は目を覚まして、昨夜のことを思い浮かべていた。そして、少し後悔していた。店が朝までやっていなければ、和美はこの部屋に泊まったかもしれない…。そうでなければ、もしかすると別の場所で一緒に朝を迎えたかもしれないと。


 和美はJR中野駅で降りると、自宅まで歩いた。30分ほどゆっくりと歩いて帰った。

 宮下とホテルに泊まってもいいとも思っていたが、宮下はそんなそぶりを見せなかった。結局、決して面白いともいえない宮下の話に朝まで付き合ってしまった。

 部屋に着いた頃にはすっかり酔いも醒めていた。和美はシャワーを浴びると、そのまま何もつけずにベッドに潜り込んだ。






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