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70.本当は酔ってないの

70.本当は酔ってないの


 電車に乗ると、和美は康祐にもたれかかって眠ってしまった。正確には眠ったふりをしたのだ。康祐は和美がよろけてしまわないように支えてくれている。

 南砂の駅に着くと、康祐にしがみつきながら電車を降りた。駅を出たところで、意識を失った様に倒れ込んだ。康祐は心配そうに声を掛けた。そして、どうにか抱きかかえるようにしてベンチがあるところまで連れて来た。

「酔いが醒めるまで少し休んでいこう」

康祐がそう言うと、和美は力なく頷いてみせた。


 康祐のマンションが、もう、すぐ近くだということは知っていた。社員名簿で確認していたからだ。和美の家は落合。同じ東西線でも正反対の方向だ。そして、和美は酔ってなどいなかった。


 ベンチに腰かけると和美は康祐にもたれかかって、安心したように眠ってしまった。30分ほどそうしていた。しかし、和美は一向に目を覚ます気配がない。康祐は和美の体をゆすって和美を起こした。

「君の家はここから遠いのか?」

「はい」

「じゃあ、タクシーで送るから。どの辺か言って」

「落合」

「えっ?南砂じゃないの?落合ったら全く反対方向じゃないか」

 康祐は時計を見た。11時を過ぎている。終電には間に合う時間だが、この状況で電車に乗せるわけにはいかない。康祐はとりあえず、和美を自宅へ連れて行くことにして博子に電話をした。


 部屋に戻ると、博子が玄関で待っていた。

「大丈夫なの?」

「とりあえず、ソファにでも寝かそう」

「私は先に寝るわよ」

 博子はそう言うと、寝室へ戻って行った。居間には酔いつぶれた和美と康祐だけになった。康祐は博子が用意してくれていた毛布を和美の体に掛けた。その時、和美が康祐の腕を掴んだ。和美は人差し指を口に当て『静かに』というポーズをとっている。その顔はさっきまでの和美とはまるで違っていた。和美は康祐の体を引き寄せると、手を康祐の頭の後ろに回し唇を重ねた。





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