7.ならば話は早い
7.ならば話は早い
諌山沙織が康祐の隣で馴れ馴れしくしているのが博子は気になって仕方なかった。
寿退社をする沙織の相手が佐久間なのだとしたら納得もいくが…。しかし、そうだとしたら、博子の思惑が振り出しに戻ってしまうことになる。
「岩崎さんは独身なの?」
小田切が聞くと、周りの―多分独身であろう―男達が聞き耳を立てているのが博子には分かった。
「はい。募集中です」
「じゃあ、彼氏とかも居ないの?」
正面に座っている―確か営業の宮下と言ったような気がする―男が聞き返した。
「はい」
「じゃあ、立候補しようかな」
「ごめんなさい。タイプではないので」
こういうことは下手に気を使うより、はっきり言った方がいいというのが博子の考え方だ。以前、その気のない相手にあやふやな態度を取ったばかりにしつこくまとわりつかれたことがある。
「ところで…」
博子は高田に気になっていることを聞こうとした。
「諌山さんの相手って…」
博子が切り出した途端、高田は答えた。
「佐久間じゃないから安心しろ」
高田はそう言って博子にウインクした。
高田は博子が康祐を狙っていることに気が付いているようだ。博子はそう感じた。昨日、たったあれだけの時間、一緒に居ただけなのに…。ならば話は早い。博子は開き直った。
「ちょっと失礼します」
博子は席を立った。もちろん、康祐のそばに行くためだ。
「あいつは堅物だから手強いぞ。まあ、頑張れ」
席を離れる時に高田が耳打ちをしてくれた。望むところよ!博子は康祐の正面の席に座った。隣にいた男が「どうも」と頭を下げた。しかし、博子はその男には構わずに、康祐に声を掛けた。
「少しお話しましょう…」