69.そつがない対応
69.そつがない対応
宮下はかなりのイケメンなのだが、彼女が居ない。その気がないわけではないのだけれど、なぜか縁がない。仕事柄残業や土・日出勤も多く、機会がないのだと本人は言っている。しかし、性格的なものがあるのではないかと最近になって康祐は気が付いた。
同じ会社に居ても、今までは同じ仕事を一緒にする機会もなかった。康祐が主任になってからは、よく話をするようになった。話を聞いていて思ったのだが、宮下は何事に対しても諦めるのが早い。それはつまり、執着せずに次に進むのだという前向きな考えだともいえる。ところが女性に関してはそれが上手くいっていないように思えた。
和美は康祐の隣に座ったものの、場が落ち着くと、全員に酌をして回った。性格はきつそうだが、それなりに礼儀はわきまえているようだし、社交辞令に対する対応もそつがない。そんな和美を康祐は感心しながら見守っていた。
和美が宮下のところへ行くと、康祐は自然と宮下の表情を観察した。宮下はもう和美には興味がないような態度を取っている。
「宮下さん、さっきはごめんなさいね」
和美がそう言っても宮下はどこか違うところへ目を泳がせた。ところが、和美が何やら宮下の耳元で囁くと、表情が一変した。そして、急に楽しそうに話をし始めた。和美もしばらく宮下の隣に座って談笑している。その合間に、宮下には気付かれないよう、康祐の方をちらっと見てウインクをした。
歓迎会も終わりに近くなってから、ようやく和美は康祐の横に戻って来た。康祐は和美に聞いた。どうやって宮下の機嫌を直したのかを。
「簡単ですよ。こんなイケメンと知り合いなんだと友達に自慢したいから、今度、食事に付き合ってくださいって言ったの」
康祐はなるほどと頷いた。これなら宮下も悪い気はしないだろうし、和美が宮下に好意を持っているのだという変な勘違いをされることもないかもしれない。
歓迎会が終わって解散すると、宮下は和美に手を振ってJRの飯田橋駅の方へ向かって歩いて行った。康祐も、東西線の九段下駅の方へ歩き出した。駅の入り口で誰かに腕を掴まれた。和美だった。
「一緒に帰ってもいいですか?」
「君も東西線?」
「はい!南砂です」
「えっ!じゃあ、僕と同じだ…」




