66.産休代わりは派遣社員
66.産休代わりは派遣社員
産婦人科で知り合った尾崎芙美香は博子を自宅に連れてきた。芙美香の部屋は1階で専用庭がある。夫婦のどちらか、または両方にガーデニングの趣味があるのだろう。専用庭には様々な草花や鉢植えがバランス良く配置されていて目の保養になる。
「今朝、作ったフルーツジュースがあるの。それでいいですか?」
芙美香が聞いた。博子は頷きながらクスッと笑った。はじめ、上から目線で話しかけてきた芙美香が博子の方が自分より年上だと知ってからは、ずっと敬語を使っているからだ。
「どうかしましたか?」
「いえ、その…。私の方が年上だと言ってから芙美香さんがずっと敬語を使っているのが、なんだか可笑しくて」
「それはそうですよ。目上の人にはちゃんとした口のきき方をしないと…。ウチ、親がそう言うところ、うるさくて」
「でも、気にしないで。たったの2つじゃない。それに、育児に関してはあなたの方が先輩なんだから」
ティーエムアーキテクトでは博子が産休に入ってから、派遣会社から短期の女性事務員に来てもらっていた。
笹田和美は24歳。4年制の大学を卒業した後、新卒での採用を貰えず、人材派遣会社に登録した。そして、そこで働くようになって2年目に入っていた。派遣先での和美の評判は良く、契約が切れる前から次の仕事の予定を言い渡されることも少なくなかった。
「今日は笹田さんの歓迎会でもやろうか」
高田が言うと、社内に居た全員が賛成した。例によって、高田は康祐に段取りを任せた。終業時間が近づくと、和美が康祐の席にやって来た。
「佐久間さん、私、派遣なんだし、そんな歓迎会なんてして頂かなくてもいいです」
「何か用事でもあるの?」
「いえ、とてもヒマですけど…」
「じゃあ、おいでよ。もう、飲み会は段取りしてあるから。主役が居なくちゃ若い奴らが荒れるから」
「えっ?皆さん酒癖が悪いんですか?」
「あ、そういう意味じゃなくて、ウチは女っ気のない会社だから、笹田さんみたいに若くて可愛らしい女の子と一緒なのは奴らに限らず僕だって楽しみなんだ」
「まあ!佐久間さんってお上手ですね」
康祐にしてみれば、別にお世辞を言ったつもりもなかったのだが…。




