65.年下の先輩
65.年下の先輩
32歳にして初めての妊娠。産婦人科医院の待合室。
子供を産むのに決して遅い年齢ではないと産婦人科の担当医は言っていた。けれど、博子は不安だった。高齢出産などと言えば大袈裟なのかもしれないが、待合室に居るお腹の大きな女性は皆、博子より若いように思えた。
「初めてなの?」
隣に座っていた女性が声を掛けてくれた。小さな女の子を連れている。
「あ、はい」
「私も初めての時は不安だったわ」
「あの…。失礼ですけど、おいくつですか?」
博子はこの女性が自分と同じくらいかもしれないと思って聞いてみた。身近なところで経験者の知り合いが居れば心強いのではと思ったからだ。
「30よ。この子を産んだ時は27だったけど」
「私32なんですよ」
「あら、私、てっきり年下だと思って…。すみません。上から目線で話しかけちゃいました」
年下だと思われていたことは素直にうれしかった。それでも、やっぱり彼女が自分より年下だったことに、そして、既に二人目の妊娠だということに少し引け目を感じた。けれど、この人なら年も近いし、いろいろ相談に乗ってくれるかもしれない…。
「そんなことはないわよ。お住まいはこの近くなのかしら?」
「はい、そこのパークマンションです。なので、ここは近くて助かります」
「あら、私も」
二人はすぐに意気投合した。早速、連絡先を交換すると、彼女は博子を自宅に誘った。
峰岸コンツェルンの仕事は順調だった。耐震診断を行い設計に入った。同時に工事費用の積算を行う。概算の工事費用は約3億。施工業者数社を指名して入札を行った結果、大手の成島建設が落札した。工事の着工に先がけて、峰岸コンツェルンの担当者、成島建設の施工スタッフとの会議が行われ、峰岸社長も同席した。そこで、康祐が進行役を務めた。そして、1か月後、工事がスタートする。
「ちょうど、その辺りで産まれるのではないかね」
会議の後、峰岸が康祐に話しかけた。そして、少々気が早いけれどと前置きをして、お祝いののし袋を手渡してくれた。




