61.ひとつの決意
61.ひとつの決意
両方の手で頬杖をついて湯川の顔を眺めている理恵は不満顔だった。料理がまずかったわけではない。
「どうして、そうなっちゃうかなあ」
湯川が「もう会わない方がいい」と切り出したので理恵がその訳を問い詰めたところだった。
「だって、君は佐久間さんのことがまだ好きなんだろう?」
「彼は元旦那。好きに決まってるじゃない。でも、もう別れたの。よりを戻すつもりはないのよ。私があなたに声を掛けるのはあなたと一緒に居たいからなのに、判らないの?」
「だけど、僕には…」
湯川が言い終える前に理恵大声で湯川の言葉をかき消した。
「知ってるわよ。奥さんも子供も居るんでしょう。好きになったのは私の勝手。結婚してくれなんて言わないわよ。だから、お願い。あなたの都合のいい時だけで構わないから一緒に居させて」
小田切は志穂とずいぶん長い間、半同棲的な生活をしてきたと言う。しかし、離婚の原因は小田切の浮気ではなく、奥さんが別の人とこれからの人生を送りたいと申し出たからなのだと言う。
「それで、これからどうするんですか?」
「まあ、お察しの通り二人でこの店をやって行こうと思う」
「まったく信じられませんよ…」
「まあ、そのうち、調理師の資格でも取って、二人でのんびり生きていくさ」
「本当にそれでいいんですか?」
「よせよ。そんな言い方はするもんじゃない。志穂に失礼だろう」
康祐が志穂の方に目をやると、彼女は申し訳なさそうに、ただ下を向いて立っている。小田切のことを本当に慕っているのだということが、色恋ごとには鈍感な康祐にもよく判った。
「すみません。決意は固そうですね。今度、みんなでお邪魔させていただきます」
康祐はそう言うと、再び志穂に目をやって深々と頭を下げてから店を出た。
周囲の目が理恵と湯川に集まった。湯川は理恵の言葉が本心なのか測り兼ねていた。
「ちょっと付き合ってちょうだい」
理恵はそう言うと、周囲の目など気にせずに、湯川の手を取って立上った。




