58.一生、恋をし続けよう
58.一生、恋をし続けよう
湯川が43歳の時に、18歳で結婚した長女に子供が生まれた。湯川は45歳にして“おじいちゃん”になった。湯川の妻は湯川より3歳下なので42歳で“おばあちゃん”になったわけだ。
「いやね。おばあちゃんだなんて」
妻の弥生はそう言いながらも、まんざらではない顔をして湯川が座っているソファの隣に腰を下ろした。
「弥生だって睦美を生んだ時、義母さんは40代だったじゃないか」
湯川は弥生の肩に手を回してやさしく抱き寄せた。
湯川は高校卒業と同時に東京の建設会社に就職した。弥生と結婚したのが24歳。弥生は21歳だった。弥生の誕生日である3月に式を挙げ、翌年の1月に長女の睦美が生まれた。さらに3年後の8月に、次女の葉月が生まれた。妻と二人の女の子。そんな家族とともに幸せに暮らしている。
そんな湯川が妻以外の女性に恋をした。理恵だった。叶わぬ恋だとは理解していた。けれど、好きになってしまったものは仕方がない。理恵から声がかかればどんな用事があっても、理恵を優先した。理恵を思う気持ちが強いからこそ、理恵の気持ちがよくわかる。
少し険しい表情になった康祐を見て、湯川は咳払いをした。康祐が湯川の方に振り向いたのでこう言った。
「まあ、僕は妻子持ちですから、恋をする資格なんかないんですけどね」
「バカねえ!妻子持ちだろうが年寄りだろうが、人は恋をしていないと生きていけないんだからね」
横から理恵が絡んできた。かなり酔っているようだ。かろうじて聞き取れたけれど、既にろれつが怪しくなっている。
理恵をタクシーに乗せて帰路についた湯川の頭の中には、先ほど理恵が言った言葉が浮かんできた。
「人は恋をしていないと生きていけない」
その通りだと思った。そして、心に誓った。
「僕は一生、弥生に恋をし続けよう」




