57.女の戦い
57.女の戦い
博子と理恵は二人で盛り上がっている。それは盛り上がっていると言うよりは喧嘩しているようにも思えた。その迫力の前に、他の客たちは誰もカラオケをリクエストできずにいた。
いつの間にか湯川は康祐の隣に移っていた。
「何のために彼女を誘ったのかわからないな」
湯川がポツリと言う。
「まったくですね」
康祐も同意した。
「でも、彼女がこの店にこだわったのは、ここに来れば佐久間さんに会えると思ったからじゃないですか?」
「どうして?」
「理恵さんはまだ佐久間さんに未練があるのではないですか?そうでないのなら、久しぶりに元亭主に会ったら、前よりいい男になっていたので惚れ直したとか」
「まさか!理恵に限ってそんなことはありえないと思うけど」
「失礼だけど、佐久間さんは理恵さんのことをどれだけ知っていますか?」
湯川にそう言われて康祐はハッとした。確かに結婚こそしていたけれど、知り合ってから別れるまでの時間はわずかなものだった。
「僕だって何もわからないんですけどね。でも、相手の女性が自分に気があるかどうかくらいは気付きますよ」
志穂は小田切の姿を目にすると、泣きながら抱きついた。
「ごめんなさい…」
小田切は部屋に踏み入ると、ドアを閉めて志穂が落ち着くまでその場に立っていた。やがて、志穂は小田切から離れて涙をぬぐった。
「店に行ったら閉まっていたから、体の具合でも悪いのかと心配になって…」
「ごめんなさい。私ったら、本当にどうしようもない女だわ」
「何かあったのか?いや…。いい」
小田切は自分の態度が志穂に寂しい思いをさせたのではないかと察しを付けた。そして、そっと志穂の肩に手を置くと、こう言った。
「少し小腹がすいたな。何か適当なものはあるかな」
志穂はようやく微笑んで、涙声ながら答えた。
「少し待ってくださいね。すぐに仕度しますから」




