56.醒めきった夫婦関係
56.醒めきった夫婦関係
志穂は男と別れると、店に戻って来た。一度締めた店を開けるつもりもなく、一人でカウンター席に座って冷で日本酒を呑み始めた。
「バカみたい…」
志穂はそう呟いてグラスの酒を流しに捨てた。
床に入った小田切がうとうとし始めた頃、玄関のドアが開く音がした。房子が帰ってきたようだ。話し声が聞こえる。誰かに送ってもらったのだろう。ドアが閉まると、話声は聞こえなくなった。かと思うと、いきなり大きな物音がした。小田切は飛び起きて様子を見に行った。
玄関先で房子が鼾をかいて転がっている。房子のこんな姿を見たのはもちろん初めてだった。小田切は房子を寝室へ運ぶとベッドに横たえた。
「テルさんと一緒になればよかった…」
房子の口からこぼれた言葉。どうやら寝言らしい。
小田切は一瞬驚いたが、今となっては妻がどこで何をしていようがどうでもよかった。多分、今送ってくれたのが、そのテルさんだったのかもしれないし、今日はずっと彼と一緒だったのかもしれない。
寝室から出ると小田切は身支度を整えダイニングテーブルにメモ書きを残した。
『急な呼び出しがあったので出かける。しばらく帰れないかもしれない。落ち着いたら連絡する』
小田切は家を出るとタクシーを拾った。
博子はカラオケをやりたいと言って、曜子からデンモクを受け取った。
「そう言えば初めてだね。君の歌を聴くのは」
「カラオケは好きなのよ。上手だというわけではないけれど」
博子がリクエスト曲を入力すると、すぐにイントロが流れてきた。岡本真夜“TOMORROW”だ。康祐も好きな曲だった。
「あっ!この曲、私も好き」
理恵が叫んだ。博子はもう一本あったマイクを理恵に渡し、一緒に歌おうと合図した。これが引き金になった。その後二人は、あみんやプリンセスプリンセスなどの女性ボーカルの曲を歌いまくった。
一人で帰宅した志穂が寝ようとした時、メールの着信音が鳴った。小田切からだった。
『開けてもらえるかな』
玄関のドアを開けると、そこには小田切の姿があった。




