55.恋の嵐
55.恋の嵐
小田切はテレビを見ながら缶ビールを飲んでいた。12時を過ぎても房子は帰ってこない。小田切は飲み終えたビールの缶をゴミ箱に放り込むと、書斎へ向かった。
もう20年以上、房子とはベッドを共にしていない。そうなってからはずっと書斎で寝起きしている。房子は寝室のダブルベッドを一人で使っている。この日も、小田切は書斎に敷きっ放しの布団に一人で潜り込んだ。
房子は同年代のカラオケ仲間と盛り上がっていた。そこはカラオケ居酒屋という言葉がぴったりの店だった。客も年配者がほとんどだ。
「フサちゃん、どうしたの?なんだか機嫌が悪いね」
声を掛けたのは房子がいちばん仲良くしている男性で吉田輝夫という。
「急に旦那が帰ってきちゃって…」
「なんだ、良かったじゃないか」
「あんな人、家に居たって面倒くさいだけよ。私、テルさんと一緒になっていればよかったのに」
「おい、おい、そんなこと言ったら本気にするぞ」
吉田は既に妻を亡くして一人暮らしをしている。年齢も小田切より若い55歳。房子より5さい年上ではあったが、見た目も考え方も房子に近いものがあり、心を惹かれるには十分であった。
康祐は博子が嫌な思いをしているのではないかと気を使った。
「今日はもう帰ろうか?」
「あら、まだいいじゃない。康ちゃんが嫌なら仕方ないけど」
博子はそう言って、カウンターの隅に居る湯川と理恵の方に目をやった。
「僕は平気だけど、君が嫌なんじゃないかと思って」
「なんだ、じゃあ、いいじゃない」
博子は見せつける様に康祐の腕にしがみついた。
「あら、仲がいいのね。本当にお似合いだわ」
理恵は二人にそう言うと、これ見よがしに湯川の肩に顔を寄せた。
男は志穂を寿司屋へ連れて行った。けれど、志穂はどことなく上の空だった。
「ごめんなさい、急用を思い出しちゃったの」
そう言うと、志穂は席を立ち、男を置いて店を出た。




