54.鉢合わせ
54.鉢合わせ
二人揃って“純”に顔を出すのは結婚してから初めてだった。お土産のマカデミアンナッツチョコレートを持ってやって来た。
「あら、ありがとう。どこに行ってきたの?」
「グァムです」
曜子の問いに博子が答えた。曜子は早速パッケージを開けると、一粒を摘まんで口に放り込んだ。
「お客さんに出してもいいかしら?」
「どうぞ、ご自由に」
他の客はまだ居なかったので、三人で新婚旅行の話などで盛り上がった。しばらくすると店のドアが開く音がした。入ってきたのは湯川だった。
「あっ!佐久間さん、来てたんですか?」
そう口にした湯川は気まずい顔をした。そして、出直して来ると言い、康祐たちに背を向けた。ドアを開けて外に出ようとしたところへ女性の客が入ってきた。
「えっ?」
思わず声を出したのは康祐だった。入って来たのが理恵だったからだ。
電話は小田切からだった。女房が浮気に気付いているかもしれないという事だった。しばらくは家でおとなしくしているからいけないと告げられた。志穂は解りましたと一言言って電話を切った。
浮気?冗談じゃないわ。本気だと思っていたのに…。
志穂はカウンターの客が自分に好意を持っているのを知っていた。むしゃくしゃしたので男に声を掛けたのだ。
「今日は他にお客さんも来そうにないから、お店はもう締めるわね」
そう言うと、志穂はエプロンを外した。
湯川はここで理恵と待ち合わせをしていたらしい。初めて理恵がこの店に来た時に居合わせた湯川は二人の関係も知っていた。だからバツが悪いと思ったのだ。それならば、そもそもこの店で待ち合わせなどしなければよかったのに、理恵がここに来たいと言ったのだという事だった。
「そんなに気にしなくてもいいよ」
理恵はそう言って、湯川にウインクした。と、同時に康祐たちにも手を振っておどけて見せた。




