51.出会いは偶然
51.出会いは偶然
会社へのお土産はお決まりのビーフジャーキーとマカデミアンナッツチョコレート。それをつまみに事務所で一杯やっている。酒は康祐が免税店で高田に買ってきたヘネシーVSOP。
「やっぱりビーフジャーキーはこの天狗のに限るよな」
と、小田切。
「しかし、新婚旅行でグァムなんてすごいよな。俺なんか熱海だからな」
「いったい、それって何年前の話ですか?」
「40年位前かな…」
小田切は既に60歳を過ぎている。結婚したのは35歳の頃だから、当時では決して早い方ではなかった。しかし、まだまだ収入も多くなかったため、海外旅行になど行けなかったという。康祐は毎日愛妻弁当を持参する小田切の妻が11歳年下なのだと聞いたことがあった。
「あら、新婚旅行ってどこに行ったかじゃなくて、どんな思い出を作ったかですよ」
博子の言葉に小田切は「そうだな」とうなずいている。
少し飲み過ぎた。小田切は冷蔵庫からミネラルウォーターを出してグラスに注いだ。テーブルの上には食事の用意がされている。
「そんなに酔っていて食べられるの?」
心配そうに小田切に寄り添うのは娘ほど年の離れた女性だった。この数か月、小田切はほとんど自宅には帰っていない。いつも持参してくる弁当は彼女が作ったものなのだ。
「ろくにつまみも食ってないから、悪酔いしただけさ。腹は減っているから食事はいただくよ」
「よかった。今日はあなたの好きな筑前煮を作ってみたのよ」
小田切は一口つまむと彼女の頬にキスをした。
「志穂、最高だよ」
佐々木志穂は35歳で独身。結婚の経験はない。20代の頃に銀座で稼いだ金を元手にして居酒屋を始めた。
小田切が初めてその店を訪れたのは偶然だった。現場の帰りに雨に降られ、雨宿りのつもりで入ったのが志穂の店だった。その時食べた筑前煮が気に入って、それ以来、毎週顔を出すようになった。そして、いつしか、志穂を女性として意識するようになった。




