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40.ポケットの荷物

40.ポケットの荷物


 理恵が店を出た後も博子はふくれっ面でそっぽを向いたままだった。“やれやれ”という仕草で康祐はグラスのビールを口にした。康祐は博子が落ち着くまで黙っていた方がいいと判断して、グラスにビールを注いだ。すると、博子が空になったグラスを康祐の前に差し出した。

「酔っぱらったらあなたのせいだから!」

 康祐が空のグラスにビールを注ぐと、すぐに引き寄せ、そっぽを向いたまま一気に飲み干した。

「ああ、そうだね。君が酔いつぶれたらおぶってでも連れて帰るよ。その時のために荷物を減らしておかなくちゃ」

 康祐はそう言うと、ポケットから小さな箱を取り出し、博子の前に置いた。そっぽを向いていた博子が一瞬、その箱に視線を移した。

「なによ!こんなの」

 そう言いながらも博子の表情が和らいだのは、それが何だか解っていたからだ。


 理恵は湯川と二人で歩いていた。

「少し、お腹が空いたわ。気の利いた居酒屋みたいなところはあるかしら?」

「こんな下町だから“おしゃれ”な店はないけれど、そういうことならもってこいの店があるよ」

「じゃあ、お願い。そこへ連れて行ってくださいな」

 湯川は理恵を伴って新大橋通りを渡り1本裏手の通りに入った。

 看板には『天貞』と、店の名前が書かれていた。間口は狭いが縦長の作りで奥は座敷になっている。二人は中程のテーブル席に着いた。

「あら、今日はどうしたの?彼女なんか連れちゃって」

 そう口を挟んだのは女将だった。理恵は女将を見て目を丸くした。既に60歳はとっくの昔に超えているであろう女性なのだが、金髪のアフロヘア―をしていたからだ。

「驚いた?でも、大丈夫。普通にいい女だから」

「あら、湯川さん、さすが解ってるわね」

 そう言って女将は湯川に抱きついた。理恵はそのやり取りに圧倒されながらも、なんだか可笑しくなって笑ってしまった。


 博子は箱を開けると、ダイヤの指輪をしみじみと眺めた。

「バカね!あなたがポケットから出しても私がこれをしたら余計に重たくなるじゃない」

 アヒルのように口を尖らせたまま、博子は康祐の肩に顔を寄せた。





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