4.明日からでも来て欲しい
4.明日からでも来て欲しい
この人が佐久間さんかしら…。博子は思った。
見た目では年齢は分からないわね。耳が隠れるくらいの長さの髪に白髪が交じっている。眼鏡をかけているから表情は読み取りにくい。薄いピンクのワイシャツにネクタイ、Vネックのセーター。設計屋さんって感じのスタイル。背もそれほど高い方ではない。
「どうぞこちらへ」
案内されて、博子は応接室に入った。そこには男がもう一人座っていた。こちらが社長の高田なのだろう。案内してくれた方の男もその隣に腰かけた。どうやらこの二人が面接官のようだ。
博子は前の会社が倒産した後、既に何社かの面接を受けている。すべて不採用だった。年齢的なことや実務経験・資格等で条件に合わないというのがほとんどの理由だった。
二人はそれぞれ自己紹介をした。博子の予想通り、座っていたのが社長で案内係が佐久間だった。
博子が椅子に座ると、社長の高田がいきなり切り出した。
「さて、いつから来られますか?」
「はい?」
まずい、聞き直してしまった。経験上、質問を聞き直すのはいい印象を与えない。しかし、なんの前触れもなく、いつから来られるかとは驚いた。こんな面接は初めてだ。それで、博子は思わず聞き直していた。
「というのは…」
社長の高田は更に続けた。
「今、勤めている事務員が寿退社することが決まっていてね、引き継ぎもあるから明日からでも来て欲しいのだけれど、どうだろうか?」
どうもこうもない。博子にとっては願ってもないことではあるけれど、明日からとは思いもよらなかった。明日はもう1社面接を受ける予定になっている。しかし、ここで採用されるのなら、もう必要ない。
「はい。明日からでも大丈夫です」
博子は答えた。面接は5分で終わった。その後、諸条件について説明を聞き、30分後にはその場で採用通知を貰った。
「さて、岩崎さんはこの後、何か予定はあるのかな?」
時計の針は午後4時半を過ぎたところだった。