39.ただの知り合い
39.ただの知り合い
理恵が都営新宿線に乗り合わせたのは、スカイツリーを見に行くためだった。今、住んでいる笹塚から住吉で半蔵門線に乗り換えて押上げまで行くつもりだったのだ。
「私が見届けてあげるよ!」
理恵がいきなりそんなことを言い出した。そもそも康祐が自分からプロポーズをしたという話が理恵には信じられなかった。康祐にそこまでさせる“女”を見に行く方が、いつでも行けるスカイツリーより面白いと思ったのだ。そんなわけで、理恵は“純”までついて来てしまった。
どうやら第一印象は合格らしい。とは言っても、博子との結婚について理恵に許可を得なければならない道理もないのだが。
「心配しないで、元妻だと言っても今はただの知り合いに過ぎないから」
理恵が博子にそう言うと、博子はむっとした表情で理恵に言った。
「ただの知り合いがわざわざこんなところまで来るとは思えないけど」
康祐が断りきれなかったのは解る。けれど、この女、ただの知り合いだと言うくらいなら、少しは気を使うべきだと博子は思った。
「こんなところでなんなんですけど、何か召し上がりますか?」
険悪な雰囲気になりそうだったので、曜子が口をはさんだ。康祐は“悪い”というように目で合図して、瓶のビールを頼んだ。
曜子が三人のグラスにビールを注いでくれたので、とりあえず乾杯した。博子は決して理恵と目を合わせようとしなかった。そんな博子を見て理恵は“なるほどね”と思った。そして、グラスを開けると立ち上がった。
「それじゃあ!お邪魔してごめんなさい」
そう言って博子に微笑みかけると、店を出て行った。すると、湯川も席を立った。
「また来るよ」
店を出て理恵は時間を確認した。
「中途半端な時間だわ」
「それなら少しお付き合いしましょうか?」
そう声をかけたのは、さっきまで店のカウンターの奥に居た男だった。理恵は少し考えたが、微笑んでその男の腕を取った。




