36.指輪のサイズ
36.指輪のサイズ
麻美は康祐のものを両手で包み込むと、そっと口づけをした。
「これだけがすべてではないのよね」
そう呟くとやさしく微笑んだ。
「内装のことは全部あなたにお任せするわ。予算は気にしなくていいから好きなようにやってちょうだい。そして、たまにはお茶にでも付き合ってくれたら、なおいいわ」
「服は脱がなくてもいいですか」
康祐がそう返すと、麻美は思わず噴き出した。
康祐は若杉家を後にすると、そのまま銀座へ向かった。そういう店はそこしか知らないから。理恵に送った婚約指輪を買った店。
ショーケースを眺めながらふと思った。そう言えば、博子の指輪のサイズが分からない。
「婚約指輪ですか?」
店員が寄ってきて声をかけた。康祐は店員を見てひらめいた。
「手を見せてもらっていいですか?」
「はあ?」
「彼女の指輪のサイズが分からないんです。背格好があなたとよく似ているもので」
店員は微笑んで手を出した。
「どうぞ」
昼食から戻ると、康祐からメールが入った。
『帰りに“純”で待ってる』
『了解!』
色々と聞きたいことはあったけれど、それはその時聞けばいい。きっと、康祐もそのつもりなのだ。博子はそう思ったので一言“了解”とだけ返した。
まだ少し早い。“純”が店を開けるのは7時半ころ。博子は軽くお腹を満たしておこうと思った。昼は高田の食べっ振りに圧倒されて、自分はほとんど食べなかった。今になって、急に腹が空いてきた。
店に入るのは初めてだった。たまに、メンチカツを買って帰ることはあったけれど。東大島のプロムナードにある“キッチンわかば”だ。
「あれっ?“純”で会いましたよね?」
声をかけてきたのは湯川だった。




