35.もう一度、恋してみよう
35.もう一度、恋してみよう
正午にはまだ少し早かったが、高田に誘われたので博子は席を立った。
「本当にいいんですか?」
「僕だって多少の責任は感じているんだ」
「あら?何か責任を取らなければならないような事でもしたんですか?」
博子があっけらかんと言うので、高田は面を食らったが、康祐に麻美の面倒を見る様に仕向けたことで二人の関係がぎくしゃくするのではないかという思いは、どうやら杞憂に終わったのだと理解した。
「まあ、たまには飯くらいご馳走させてくれ」
高田に連れられてきた店は博子が通っている定食屋だった。
「何かご不満でも?」
意外だ…。そんな顔をしている博子をよそに、高田はさっさと店に入りカウンター席に座った。座るなり、カツカレーの大盛りを頼んだ。博子が更に驚いた顔をすると、高田はそれを楽しんでいるかのように“ニヤッ”と笑った。
麻美は少しずつ体を開き康祐を受け入れた。康祐がしっかり入ってきたのを確認すると、そのまま抱きしめて体の位置を入れ替えた。麻美が上になり、もう一度康祐にキスをした。
「あなたって優しいのね」
「よくは分かりませんが、あなたがそう思うのなら、たぶんそうなのでしょう」
康祐のその言葉を聞くと、麻美は一瞬、穏やかな微笑みを浮かべた。そして、次の瞬間には人が変わったように激しく乱れた。
高田は、40センチの大皿に盛られた大盛りカツカレーをペロリと平らげた。博子はあっけにとられ、自分が食べるのも忘れて、高田の食べっ振りに見とれるばかりだった。
「僕だってまだまだ若い者には負けられないさ」
博子は見ているだけで腹が満たされる感覚に襲われた。
「佐久間は意外とモテるんだ。本人は自覚していないけれど。そして、君は男を見る目がある。きっと、いいコンビになれる」
高田はそう言ってコップの水を飲み干した。そして、付け加えた。
「結婚しても仕事はやめないでくれよ。君の後釜を探すのは大変だから」
麻美は一度上り詰めると、子供の様に康祐に甘えた。そして、表情を作り直していった。
「もう一度、あの人に恋をしてみようかしら。ねえ、私にできると思う?」
「はい、きっと!」




