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32.プロポーズは僕の方から

32.プロポーズは僕の方から


 好きか?と聞かれて康祐は戸惑った。博子が望んでいる“好き”とはどの程度のことなのか…。

 答えあぐねていると博子が急に席を立った。向かい合って座っていたところを博子は康祐の横に移って来たのだ。博子は康祐の横に座ると、体をぴったり寄せてきた。

「康祐さんって、結婚していたことがあるのよねぇ。どうして別れたの?」

「えっ?」

「私はね…」

 博子はその後少しだけ考えるような素振りをしてから言葉を続けた。

「もう若くはないから、そろそろ結婚したいと思っているわ」

 博子は康祐の太腿に両手を添えて上目使いで康祐を見つめる。康祐は下半身が熱くなるのを感じつつ、思わず、博子から眼を逸らした。そして一言呟いた。

「子供が欲しかった…」

 そう言って博子の手を握った。

「僕は子供が欲しかったんだけど、彼女は働きたいからと子供を作ろうとはしなかった」

 康祐は遠くを見つめたまま、手を博子の肩に回した。そんな康祐が博子は愛おしく思えた。

「私じゃダメかしら?」

「えっ?」

「私があなたの子供を産んじゃダメ?」

「それって…」

 康祐は博子の方に向き直り、両手で博子を抱きしめた。しかし、すぐに博子の体を遠ざけ、両手で肩を掴んだままこう言った。

「今のは聞かなかったことにする」

「えっ?」

 康祐は人差し指を自分の口元に当てた。何も言うな…。そう博子に合図した。

「プロポーズは僕の方からさせてくれ」

そう言って康祐は何かを探すように辺りを見回して、思いついたようにポケットに手を突っ込んだ。博子の手を取り、ポケットから出した自分の部屋のカギを置いた。

「何しろ急だったから指輪を用意していないんだ。今日のところはこれで勘弁してくれないか」


 翌日、康祐は若杉家に直行した。博子は九段下で電車を降りると、車内の康祐に向かって手を振った。そして、駅の階段を駆け上がり、会社へ向かった。



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