23.地下鉄に乗って
23.地下鉄に乗って
みっともない姿を見せてしまった。せっかくいい感じになってきたところなのに。博子は昨夜のことを後悔していた。
都営新宿線の電車の中は通勤ラッシュで混み合っている。
博子の目の前には康祐が居る。向かい合った状態でお互いの体が密着している。
一緒に朝食を取った後、康祐は一度家に戻ろうとも考えた。時間的に不可能ではなかったけれど、せっかくだから博子と一緒に会社へ行こうと思った。もはや、社内では二人のことは誰もが認めている。
「一緒に行こうか」
康祐はそう言ってみた。博子は少し戸惑っているようだったが、うなずいた。
博子が昨夜のことを気にしているのは康祐にもわかった。こういう時にどう言葉を掛ければいいのか康祐は判らず、つい、無口になってしまった。
康祐は博子のアパートを出て電車に乗るまで、会話といえるような言葉を発することはなかった。博子も同じだった。
住吉に到着すると、半蔵門線に乗り換える乗客が一斉に電車を降りた。博子と康祐もその流れで一旦電車から吐き出された。再び電車に乗ると、車内は今までよりいくらか余裕が出来た。
「やっぱり、この時間はどの電車もすごいね」
「東西線もそうなの?」
「東西線は大手町までは身動き取れないし、一度降ろされたらその電車にはもう乗れないこともあるよ」
「新宿線だってそうよ。この車両は住吉での乗換にいちばん近い車両だから、住吉で少し空くけれど、他の車両は森下か馬喰横山までギュウギュウよ」
康祐が安心したように博子を見下ろしている。康祐が昨夜のことを気にはしていないのだと博子は理解した。逆に博子が気にしていることに対してどう対応したらいいのか困っていたのだろうということにも気が付いた。
「ごめんなさい…」
博子が言うと、康祐は優しく微笑んで見せた。そして、照れ隠しにこう言った。
「失敗したなあ。混んでいるときに、君の手くらい握っておけばよかった」
「バカ…」
博子はそういって康祐の手を取った。




