19.一人よりはよっぽどいい
19.一人よりはよっぽどいい
康祐はカウンターの端に座っていた。店には他に客はいなかった。博子の姿に気が付くと康祐は軽く手を振って応えた。
「よく来るんですか?」
「いや、初めてなんだけど、一人で飲みたいときにはちょうどいいな。この店は」
「あら、私を誘ってくれないんですか?」
一瞬、虚を突かれたような表情を浮かべた康祐だったが、すぐに目元を緩めて答えた。
「君が一緒なら願ってもないさ。一人よりはよっぽどいい」
康祐にそう言わせたことを博子はしめしめと思った。同時に、自分に余裕がないことを康祐に悟られたりしなかったか心配でもあった。
「本当に?」
「僕がそんな上辺だけのセリフを言う男に見える?君はそんな男が好き?」
博子は今まで、まともな恋をすることが出来なかった。いや、まともでなかったわけではないのだけれど、結果が伴わなかった。今、こうして目の前にいる男はきっと、自分を幸せにしてくれる。少なくともそう信じたい。
康祐は今まで理恵以外の女性を好きにならなかったわけではない。
初恋は中学2年の時だった。当時の彼女には付き合っている男子がいた。けれど、康祐は密かに彼女をずっと思い続けた。中学を卒業した後で彼女にラブレターを書いたが、返事は来なかった。
その後は康祐は女性に対して“恋”といえるほどの感情を持つことはなかった。理恵に会うまでは。
そして、康祐の中で恋愛に対する考え方が変わってきたのは理恵の影響によるものが大きい。彼女は常々口にしていた。『人間って、恋をしていなければ生きていけないの』、『恋に順位をつけることは大事よ。だって、一人の人を一生愛し続けるなんてありえないもの』、『恋をするのに年齢は関係ないわ。私は80歳のおばあちゃんになっても、きっと恋をするわ』等々。
その時は『そんなものか?』と思っていたことを理恵と別かれた後、なんとなくではあるけれど、同じように思えるようになっていた。
「同じものでいい?」
康祐は入れたばかりの焼酎のボトルを指した。そのボトルには“博子”と書かれていた。
「好きな時に来て飲むといい」




