17.ランチ
17.ランチ
博子は久しぶりに石原早苗に電話をした。早苗は高校の同級生で、博子と一緒に上京した何人かの中で最も仲のいい友達だ。
「ねえ、早苗まだ料理教室に通っているの?」
「ええ、まだ通っているけれど、それがどうかした?」
「私も習いたいのだけれど、紹介してくれないかしら?」
「あら!もしかして、花嫁修業?」
「まあ、そんなところかしら」
早苗は快く引き受けてくれた。早速、今日の夜、教室に行くことになった。
花嫁修業…。30歳にもなって花嫁とは少しばかりくすぐったい。
康祐の仕事は午前中で片付いた。午後からは現場廻りを予定している。
ブースから顔を出して博子の方を覗き見ると、席をはずしていた。パソコンの画面に目を向けると、既に正午を過ぎていた。どうやら食事に出たらしい。
康祐はリュックから弁当を取り出し、娯楽室へ向かった。
娯楽室は20畳ほどのスペースがあり、飲料水等の自動販売機とテレビが備え付けられている。部屋には長テーブルといすが置かれているのだが、3畳ほどの畳敷きのスペースもあり、仮眠が取れるようになっている。
康祐は長テーブルの中央に陣取り、自前の弁当を広げた。
この辺りは場所柄、学生相手の安い定食屋も多い。それは博子にとってはありがたいことだった。
お世辞にも“おしゃれ”とは言えないこの店は学生や若いサラリーマンが席を埋めている。OLには入り辛い雰囲気がある。
しかし、博子は平気だった。むしろ、好んでこの店に通っている。ティーエムアーキテクトに入社してまだ数日しか経っていないのだけれど、既に常連ともいえる存在になっていた。
博子がアジフライ定食を注文した時、メールが入った。康祐からだった。
『今日は都営新宿線で一緒に帰れるよ』
せっかくだけど、今日はダメだなあ…。
『ごめんなさい。今日は用事があるの』
メールを返すのと同時に、大ぶりのアジフライが2枚乗った皿が目の前に置かれた。博子は頬っぺたが落ちそうになるのを感じて笑みがこぼれた。




