14.今まで知らなかったのだけれど
14.今まで知らなかったのだけれど
電車が急ブレーキをかけたので博子は眼を覚ました。このまま眠っていたら乗り越すところだった。それほど飲んだ訳ではなかったのだけれど、すっかり寝入ってしまっていた。
それにしてもリアルな夢だった。そう思いながら、博子はアパートまでの道を歩いた。
そして自分の部屋の前に着いた。当たり前だが、鍵はちゃんとかかっていた。
シャワーを浴びてベッドに寝転がった。携帯の画面を見ると、22:45の表示が22:46に変わった。康祐は今頃、会社で残業しているはずだ。仕事の邪魔をしたくはないと思いながらもメールを打った。
『お疲れ様です。残業頑張って下さい。その仕事が一段落したらまた誘って下さい』
博子は何度も文章を読み返し、送信するのをためらっていたが、結局、送信ボタンを押した。
康祐は終電の時間を気にしながらも、仕事を続けていた。パソコンの画面にはパースと呼ばれる建物のイメージを立体的に描いた図が映し出されている。もう少しで完成する。
「残りは明日だ」
そう呟いて画面を閉じた。ちょうどその時携帯電話にメールの着信が入った。博子からだった。
『今日はもうやめる。これから家に帰るところ。終電ギリギリだよ』
康祐が返信すると、すぐに返事がきた。
『気を付けて帰って下さい。ところで、佐久間さんのお住まいってどこですか?』
康祐は早足で歩きながら、博子のメールに答えた。
『江東区の砂町。駅は南砂』
ベッドに寝転がって、博子は康祐からの返事を待っていた。すぐに返事は来た。携帯の画面に映し出された文字を見て博子は驚いた。
「うそ!」
博子は思わず声をあげた。博子のアパートは大島なのだ。砂町は隣町だ。考えてみれば会社は九段下で康祐はいつも東西線で帰る。博子は都営新宿線を使っている。
「こんな近くに住んでいたなんて…」
博子は上着を羽織って自転車に飛び乗った。南砂なら自転車で15分だ。康祐が駅に着くまでには十分に間に合う。




