13.素振り
13.素振り
康祐は元々口数が多い方ではない。それでも、社内では博子とは必要以上の会話をしないように心がけた。博子の言う“社内でいちゃいちゃしない”というのはそういうことなのだと、自分なりに考えてのことだった。
博子は前任の諌山沙織と自分は違うんだということを態度で示した。
「岩崎さん、お茶入れてくれない?」
今まで、沙織はそういう雑用までやっていたのだろう。しかし、本来の業務ではそこまでやる必要はない。それは最初に高田から言われていることだった。
「それはやらなくていいと社長に聞いていますけど」
博子はそうはっきりと言い、そのうち誰も頼まなくなった。それと同時に社員達には“お堅い”“愛想の無い”といったイメージを持たれるようにもなった。ただ、接客や電話での対応は文句の付けようがなく、顧客の間では評判になっていた。
歓迎会での博子と康祐の事はその場に居た全員が目撃している。二人は付き合い始めるのだろうと誰もが思っていた。
博子が社員に対して愛想がないのは、康祐にしか興味がないからなのだと思っている者も少なくはなかった。ところが、その後の二人の様子を見ていても、そんな素振りさえ見えない。
いくら愛想がないといっても、博子はそれなりに美人だしスタイルもいい。しばらくすると、仕事帰りに食事や飲みに誘う者も出て来た。博子もたまにはそういう誘いを受けた。しかし、必ずその場だけの付き合いとし、二次会は誘われてもすべて断った。
この日も数人の男子社員達に付き合って居酒屋に行った。
「たまにはいいじゃない?」
そう言って二次会のカラオケに誘われたが、断わった。そして、一目散に地下鉄のホームに走った。
部屋に戻ると、玄関のカギは開いていた。博子はそのまま部屋に入り居間を覗いた。
「おかえり」
ちょうどシャワーから出たばかりの康祐が裸のまま博子を迎えた。博子は裸の康祐に抱きつき、唇を求めた。
「まだ濡れているのに…」
博子は構わずに康祐の身体を抱きしめた。




