10.今時、手書きのメモなんて
10.今時、手書きのメモなんて
あっという間に一か月が経ってしまった。康祐が博子のことを気にしている素振りをしているのを博子は知っていた。けれど、社内で馴れ馴れしくするのは嫌だった。
「大人なんだから、仕事に支障がなければオープンでも構わないよ」
社長は博子にそう言っていたのだが、まともに受け取るにはまだ、早いと博子は思った。。
新しい仕事に就いたことで、田舎の両親には面目が立った。ただ、前の会社が倒産したことは話していなかったので、博子はこっぴどく説教された。
「一度、戻って来んね」
そう言われて仕方なく、博子は週末の連休を利用して福岡に帰った。博子の両親は待ってましたとばかりにお見合い写真を並べて言い寄って来た。
「いつまたそげな目に遭うかもしれんけん、帰って来て結婚ばせんね」
博子の母は本当に心配そうな顔でそう言った。もちろん、心配してくれるのはありがたいことだ。けれど、博子はやっぱり東京で暮らしたいと思う。
「もう、あっちでいい人ば見つけたけん、構わんといて」
「それやったら、いっぺん連れて来んしゃい。それとも、うちらが東京ば行こうか?」
「そのうち紹介するけん」
博子は逃げるように東京へ舞い戻った。
博子は仕事が終わった後、佐久間康祐を誘ってみようと思った。
歓迎会では一世一代の大勝負のつもりで、康祐に告白した。手応えはあったと思っていた。しかし、康祐はそれっきり、何のモーションもおこしてくれない。
博子はそれが失敗だったのかもしれないと後悔した。康祐は博子が積極的な女だと思ってしまったのかも知れないと。
博子自身、あの時は心臓が飛び出すくらいドキドキした。自分でもよくあんなことが出来たものだと驚いた。
このまま何の進展もしないで、せっかくの機会を失うわけにはいかない。博子は思い切って行動をおこした。今時、手書きのメモを渡すなんて、そんな気の利かない誘い方はないけれど、博子にはそれが精いっぱいだった。
メモを渡した後、康祐の表情をチラッと確認した。確かに博子の方を見て微笑んだ。




