こんなゴキブリは殺しにくい
ごきげんよう。今年もすっかり蒸し暑い季節になりました。夏と言えば、すいか?TUBE?いえいえ、夏と言えば、ぼくらゴキブリの季節です。
今日は母さんの一周忌ですね。早いもので、母さんがスリッパで撲殺されてから一年が経ちます。今日は母さんにいろいろと報告しなければならないことがあります。あれからもぼくらの身の回りにはいろいろなことが起こりました。まず、兄さんがホウ酸ダンゴを食べて毒死しました。兄さんの食いしん坊ぶりは相変わらずで、ホウ酸ダンゴだけは食べるなよと、ぼくがあれだけ何度も口を酸っぱくして言ってきたにもかかわらず、食べてしまいました。まったくどうしようもないアニキです。兄さんの葬儀は身内だけでしめやかにおこなっていたのですが、その最中、人間に見つかってしまい、アースゴキジェットプロを吹きかけられ、場内は一時騒然となりました。パニックになりながらもみんな必死に逃げて、ほとんどのゴキブリたちは難を逃れたのですが、おばあちゃんと親戚のゴキサブロウおじちゃんだけが逃げ遅れてしまい、帰らぬゴキブリとなってしまいました。結局、後日、日を改めて3匹の合同葬儀という形でとりおこないました。母さん、ぼくらはしめやかに死者を弔うことすら許されないのですね。でもぼくは人間を憎んでなどいませんよ。
兄さんが死んでしばらく沈んでいたのですが、そんなぼくと妻のゴキエの間に子供ができたんですよ。暗い話題が続いた中、母さんに報告できる唯一の明るい話題です。・・・話題でした。しかし、息子のゴキタロウは本当にわんぱくで元気なオスゴキブリでした。本当にわんぱくでわんぱくで・・・、あんなにホイホイのそばでは危険だから遊ぶなよと言っていたのに・・・。ゴキタロウはホイホイに引っかかってしまいました。目を離したぼくも悪かったのです。そしてそれを見て、いてもたってもいられなくなった妻のゴキエもまた、ホイホイの餌食となってしまいました。ムダだ!ああなったらもう助けられないんだ!・・・そう言って何度も説得を試みたのですが、彼女の心を変えることは出来ませんでした。結局ぼくは、2匹が衰弱死していくのを見守ることしかできなかったんです。くっ。でも人間を憎みはしない。
どんなに理不尽なことをされても決して人間を憎んではいけない。
「憎しみのあるところには、愛を。」
これが、母さんの教えでしたよね。だからぼくは、今後も人間たちに何をされようと彼らを憎むことはありませんよ。すべてを許します。それが母さんの教えであり、そしてゴキブリとして生まれた自分にできる唯一のレジスタンスであるから。
うっ・・・い、息が苦しい・・・!
ま、まさかこれは・・・・大量殺戮兵器「バルサン」?!!
まさかここの家主、バルサン発動にまで踏み切るなんて!ぼくの読みが甘かった・・・。
ぼくも、ここで、死ぬのか・・・。
母さーーーん!!
ぼく、一生懸命生きましたよね?!
もうすぐ母さんたちのところに逝きます・・・。でも、本当はもうちょっと生きたいんだ。
・・・生きたい!
生きたい!
生きたいーー!!・・・・ガクッ!